「A Window of Memories」清原惟監督

 清原惟監督作品との出合いは衝撃だった。その最初の遭遇は「わたしたちの家」(2017年)で、ぴあフィルムフェスティバルのPFFアワードでグランプリを取った作品ということから大いに期待していたが、想像をはるかに超えて余りある満足度だった。何しろ主役が1軒の家で、そこで何の関係性もない2組の住人がそれぞれの物語を生きる。どこかで交わるのか交わらないのか、最後まではらはらどきどきさせながら、でも決してホラーでもサスペンスでもない新しい感覚に、とてつもない監督が現れたものだと恐れ入ったものだ。早速、インタビュー取材を申し込んで、案にたがわずめちゃめちゃ刺激的な裏話を聞くことができた。

https://www.sankei.com/article/20180112-Y2RSJE7PXNIM7DXHASO7LJYQ2I

 その後、2019年の第10回ちば映画祭で、長編「ひとつのバガテル」(2015年)に短編の「波」(2017年)、「火星の日」(2017年)の過去作に触れる。さらにはオムニバス映画「MADE IN YAMATO」(2021年)の1編「三月の光」、PFFスカラシップ作品の「すべての夜を思いだす」(2022年)と、我ながら相当フォローしているなと感じるが、いずれも清原監督らしさが漂うのに、決して同じテイストではない。多様性をたたえつつ、唯一無二の存在の映画監督って、あんまりいないのではないだろうか。

 その清原監督の待望の新作が「A Window of Memories」だ。またまた他に類を見ない斬新さで、振り幅の広さに改めて感じ入るとともに、いや、でも確かに紛れもなく清原映画だよなと実感せずにはいられない。優しさというか、いとおしさというか、作品全体がまとっている空気感が実に心地よく、いつまでもこの世界観に浸っていたいと思わせるのだ。

 プレス資料には「はじめてドキュメンタリー的手法で制作した」と書かれているし、山形国際ドキュメンタリー映画祭にも出品されているんだけど、いわゆるドキュメンタリー映画とは違う。登場するのは、清原監督の2人の祖母、母方の砂子旭子と父方の清原磋智子で、それぞれの祖母は監督と共同でこれまでの人生を文章の形に落とし込む。

 こうして編まれた自分語りのテキストを、祖母たち本人ではなく、小山薫子、坂藤加菜という2人の俳優が朗読するというのが、この映画の肝だ。2人は殺風景な部屋で1日かけて、祖母たちの実体験を読み語る。2人の祖母のそれぞれの人生は極めて個人的なものなのだが、第三者の、それもプロの役者の声で読み上げられることで、普遍性が浮かび上がると同時に、朗読する彼女たち自らの記憶とも交差する。窓から差し込む光の角度で時間の経過が表現されるのも、まるで祖母たちの人生をたどっているかのようだ。

 さらに合間合間には、2人の祖母の現在の日常風景も映し出され、自ら書き起こしたテキストに対して思い思いの感想を口にする。よわい80を超え、すっかり俗念が落ちたおばあちゃんたちの表情は穏やかで、孫の清原監督の成長ぶりを実に頼もしく感じているというのがひしひしと伝わってくる。でも、2人のこれまでの人生は……。

 と、これは実際に映画を見て、じっくりとかみしめてもらうのが一番だろう。静岡の紡績工場にお見合いで嫁いだ母方の祖母も、50代で夫と死別した父方の祖母も、それなりの苦労と壮絶な瞬間を経て今に至っている。その個人史が本人たちの口から発せられていないからこそ、余計に聞く者の胸の奥深くに響いてくるような気がした。

 それにしてもラストにこんな謎めいたエピソードを持ってくるとはね。これ以上はないというほど実に映画らしい締めで、やっぱり清原監督、期待以上のものを出してくれる。(藤井克郎)

 2026年8月7日(金)から、Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下など全国で順次公開。

©Yui Kiyohara

清原惟監督「A Window of Memories」から ©Yui Kiyohara

清原惟監督「A Window of Memories」から ©Yui Kiyohara