「TENET テネット」クリストファー・ノーラン監督

 自主映画の祭典、第42回ぴあフィルムフェスティバル(PFF)が9月12日、無事に幕を開けた。新型コロナウィルスの影響でオンラインでの開催を余儀なくされる映画祭が多い中、東京・京橋の国立映画アーカイブを会場に、大きなスクリーンで上映してくれるのはありがたい限りだ。ただしソーシャルディスタンスを保って入場が3分の1に制限されていて、チケットは前日までに予約をして購入しなければならず、まだ1プログラムの2作品しか見ていない。昨年はコンペティション部門に当たるPFFアワード入選作の全18作品を制覇しただけに、ちょっと寂しい。

 自主映画大好き人間としては、その対極にあるハリウッド大作は最も苦手とするところだが、イギリス出身のクリストファー・ノーラン監督は大いに気になる存在だ。何しろデジタル全盛のこの時代にフィルムでの撮影にこだわり続け、極力コンピューターに頼らない映像づくりを心がけている。前作の「ダンケルク」(2017年)でも、実際にスピットファイア戦闘機を飛ばして空中戦の場面を撮影していて、自主映画スピリットにあふれた映画作家なんだと思う。

 というわけで、話題の最新作「TENET テネット」なんだけど、こりゃまたすごい映画を作ったもんだ、というのが正直な感想だ。

 ストーリーは、実のところよくわからない。主人公(ジョン・デイビッド・ワシントン)が第三次世界大戦を阻止するよう命を受け、ロシア人らしき黒幕(ケネス・ブラナー)に近づくべく、その美しい妻(エリザベス・デビッキ)と接触する。などというと007シリーズのような典型的なスパイものに思えるが、どうやらその指令は未来からのものらしく、さらに味方だか敵だかわからない男(ロバート・パティンソン)がつきまとう。1回見ただけではまるで理解不能だが、だからと言って2回、3回と見ても把握できる自信は全くない。

 それよりも刮目すべきは、全編を貫く映像魔術の見事さだ。時間がキーワードということもあり、逆回転映像がふんだんに出てくるが、驚くことにノンストップのアクションと大規模なロケーションで順行と逆行とが同時に進行する。高速道路を猛スピードで並走する2台の車の間を逆行の車が逆走し、さらに主人公が順走の車から別の順走車へと飛び移る。爆弾が破裂したり、ビルが崩壊したりといった大がかりな逆行のすぐそばを、順行の人物が走り抜ける。何なんだ、これは。

 しかも前半にいろんな伏線が張られているのを、一つ一つきちんと回収する。同じシチュエーションでも、後半では順行と逆行を逆に描いていて、それぞれ視点も違っている。ノーラン監督のイメージする空想の世界を、とことんまで映像で表現してやろうという意欲に満ちあふれていて、もう興奮しないわけにはいかないよ。

 ノーラン監督と言えば、30歳のときに公開された出世作「メメント」(2000年)でも時間の逆行をテーマにしていて、まさに映画を志したころの心をずっと持ち続けていたことがわかる。PFFで奮闘する若い監督たちも、ぜひとも初心を忘れることなく、大きく羽ばたいていってもらいたいものだ。(藤井克郎)

 2020年9月18日(金)、全国公開。

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クリストファー・ノーラン監督作「TENET テネット」から © 2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved

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