「ヴィレッジ」藤井道人監督

 藤井道人監督の快進撃が止まらない。「新聞記者」(2019年)で世間をあっと言わせたのがまだ4年前で、その後、「宇宙でいちばんあかるい屋根」(2020年)、「ヤクザと家族 The Family」(2021年)、「余命10年」(2022年)と立て続けに話題作を発表。この「ヴィレッジ」の後には、岡田准一と綾野剛の主演で韓国映画をリメイクしたアクションサスペンス「最後まで行く」も控えるなど、馬車馬のように作品を世に送り続けている。その間、テレビドラマの「アバランチ」「新聞記者」を手がけ、若手監督を起用して「生きててごめんなさい」(2023年、山口健人監督)をプロデュースするなど、どこかに何人か分身がいるんじゃないかと思うくらいの働きぶりだ。

 しかも監督作1作1作が重く、深い。「ヴィレッジ」は原作のない藤井監督オリジナルの脚本で、今日的な社会問題をテーマに据えつつ、娯楽性もたっぷりで、さらに映像や音響にも凝りに凝っているという、まあ極上のフルコース料理をおなかいっぱいいただいたといった映画に仕上がっている。

 とにかく能舞台と放火現場をカットバックであおりにあおる冒頭から、まがまがしさとおどろおどろしさに満ちあふれていて、わくわく感が止まらない。舞台はとある閉鎖的な山あいの村。この村の雇用と財源を支える一番の施設が大規模なごみ処理場で、わけありの主人公、優(横浜流星)は末端の作業員としてここで働いている。施設を牛耳る村長(古田新太)の息子、透(一ノ瀬ワタル)には何かにつけて目をつけられ、安い給料もギャンブル依存症の母親(西田尚美)の借金返済で消えてしまう。まるで希望が見いだせない中、優の幼なじみの美咲(黒木華)が東京から帰ってきて、ごみ処理場の中核職員として働き始めるが……。

 どこの地方にも見られる利権がらみの社会構造に加え、ごみ処理場の建設をめぐって村を二分するほどもめたという過去の因縁が絡み、土着的でどろどろした人間模様が紡がれる。支配する側、される側が何層にも分かれて位置づけられ、優たち最下層の労働者は一つ上に這い上がるのもままならない。なぜ優はそんな立場に甘んじているのか。その疑問がおいおい明らかになって行く展開が実に巧妙で、せりふで雄弁に語られることなどないにもかかわらず、すとんと入ってくるばかりか、込み入ったミステリー仕立てにもなっていて、終盤になるにつれてどんどん引きつけられていく。

 と同時に、映像は藤井監督お得意の凝りようで、今回も照明を極力抑え、村の中のすべてが深い闇に包まれているような印象を醸し出す。その土着性を強調するかのように登場するのが村に伝わる伝統芸能の能だ。村長の弟で今は村を出て刑事になった光吉(中村獅童)が舞う「邯鄲」の神秘性が、この映画のストーリーに重なり合う。

「邯鄲」は一睡の夢を題材にこの世のはかなさを描いた演目だが、大音響で流れる薪能の謡が、この村で起きている何か得体のしれない悪夢を暗示する。この村ではさまざまなものが隠蔽され、でもがんじがらめのしがらみの中で、ほとんどの人は正直な声を上げることができない。この人間関係はまさに日本のムラ社会の典型であり、それが今日のわが国の体たらくにつながっているのではないか。村長宅の欄間にずらっと掲げられた何人ものご先祖様の遺影が物語るそんな重苦しい図式が、スクリーンから圧倒的な力で押し寄せてきて、全身からアドレナリンが噴き出してくるような感覚を覚えた。

 藤井監督には2014年、「幻肢」のときにインタビュー取材をしているが、まだ28歳の監督は初々しさをたたえながらも、しっかりと将来を見据えていた。「僕としては大ヒット映画をずっと撮り続ける監督にはなれないと思っている部分もあって、でもそうなればいいなとも思っている」と話していた藤井監督は「まずは10年後、日本代表として世界でしっかりと見てもらえる監督になりたいな」と目標を口にしていた。いやいや、9年しかたっていないけど、もうとっくにクリアしているよね。(藤井克郎)

 2023年4月21日(金)、全国公開。

©2023「ヴィレッジ」製作委員会

藤井道人監督作品「ヴィレッジ」から。閉鎖的な山あいの村でひっそりと生きていた優(横浜流星)だったが…… ©2023「ヴィレッジ」製作委員会

藤井道人監督作品「ヴィレッジ」から。幼なじみの美咲(右、黒木華)が東京から帰ってきて、優(横浜流星)の人生が大きく動き出す ©2023「ヴィレッジ」製作委員会