「自分たちが見たい映画」を世界同時期公開 新レーベル「New Counter Films」が始動

 ミッションに掲げたのは「誰もが見たい映画ではなく、誰かが見たい映画をつくる」こと。映画の制作、配給などを行うコギトワークス(本社・東京都世田谷区)が、ネット配信事業のU-NEXTのサポートで新たな映画レーベルのNew Counter Filmsを設立し、3月4日(月)に東京・渋谷で記者会見が開かれた。すでに第1弾として二ノ宮隆太郎監督の「若武者」が完成しており、5月に世界同時期で劇場公開されるほか、U-NEXTで国内配信もされる。会見に臨んだコギトワークスの関友彦代表は「プロデューサーが監督の力を最大限に引き出せる場として、映画を作るだけにとどまらず、作ったものを直接お客さんに届けたい」と意気込みを見せた。

★産地直送で作り手が直接お客さんに届ける

 New Counter Filmsは、関さんと、映画プロデューサーで現在はコギトワークスに所属する鈴木徳至さんの2人で合同会社として設立。作品ごとにコギトワークスとU-NEXTが出資して新作映画を製作する。第1弾の「若武者」は、5月25日(土)に東京都渋谷区のユーロスペースや大阪市北区のシネ・リーブル梅田(4月にテアトル梅田に改称)、横浜市中区の横浜シネマリンなど各地のミニシアターで公開されると同時に、U-NEXTでの国内配信がスタートするほか、ロンドンやニューヨークのアートハウス劇場での上映も決まっている。

 発足の狙いについて、関さんは現在の日本映画界に配給、販売のシステムが一つしかないことを指摘。「出資者が製作委員会を作って全国に配給し、海外のセールスカンパニーに買っていただくという売り切りが今までのビジネススキームで、今の日本映画にふさわしいやり方だということは理解している。でも映画も普通の商品のように、作り手が直接お客さんに届けるということをやってもいいのではないか。ファームトゥテーブルという言い方をしているが、産地直送でやることで作り手であるわれわれが直接、観客の反応を聞くことができるし、日本だけでなく各国の反応もちゃんと受け止めることで、次の企画につながっていく。より鋭利なものができるのではないかなと思います」と語る。

 これまでのコギトワークス作品を通して全国のミニシアターと付き合いがあり、国内での上映館は作品ごとに交渉する予定だ。海外も2023年のオムニバス映画「almost people」(横浜聡子監督、石井岳龍監督、加藤拓人監督、守屋文雄監督)で同時期公開を経験しており、ロンドンではとある劇場から、ほかの作品も見せてほしい、と打診されたほどだという。「『若武者』は、ロンドンでは4館でできそうな状況です。いずれは20館くらいまで成長したい」と関さんは強気だ。

 1本あたり約2500万円の予算は観客動員が1万人を超えると回収できる見込みで、それ以上の成功報酬は作り手に還元される。できれば国内だけで回収して、海外での収入は全て成功報酬にしたいともくろむ。

「当初は毎年3本作ると言っていたが、まずは年に1~2本で進めていく。劇場公開と同時にU-NEXTで配信することに関しては、特に上映館からネガティブな意見はない。やってみないとわからないが、もしかしたら配信で見てから劇場に来る人もいるかもしれない。ポジティブなことばかり考えているが、そうなればいいなという感じですね」と関さんはあくまでも前向きだ。

★脚本づくりから撮影までやりやすい環境

 第1弾を手がけることになった二ノ宮監督も会見に姿を見せたが、「誰もが見たい映画ではなく、誰かが見たい映画ということで、ほかにない独創的な作品を目指さなければ、という思いはありました。ただ自由にさせてもらえる部分も多かったし、脚本づくりから撮影までやりやすい環境を作っていただきましたね」と感謝の言葉を口にする。

「多くのお客さんが楽しむ映画はすでにいっぱいある。僕もヒット映画は大好きなのでよく見にいくが、そればかりが持てはやされることに飽きている人もいると思う。みんなが見たい映画は今作っている人に任せて、New Counter Filmsの存在意義は、あ、こういう映画があった、すごい衝撃を受けた、というものをお客さんに届けることではないか。僕が見たいものを作る、と言うとエゴに聞こえるかもしれないが、そこに世界的クオリティーをつければ、見た人が何かしら感受できるものになるんじゃないかと信じて、作品を発表したいと思っています」と関さんは意欲をみなぎらせていた。(藤井克郎)

New Counter Filmsの設立会見に出席したコギトワークスの関友彦代表(右端)、二ノ宮隆太郎監督(中央)、鈴木徳至プロデューサー=2024年3月4日、東京都渋谷区(藤井克郎撮影)

New Counter Films第1弾、二ノ宮隆太郎監督の「若武者」から。5月に世界同時期で公開される Copyright 2023 “若武者” New Counter Films LLC. ALL RIGHTS RESERVED