「青春18×2 君へと続く道」藤井道人監督
社会派から娯楽大作まで、幅広い作品で今や日本を代表する若手映画人の藤井道人監督は、祖父が台湾出身というルーツを持つ。その事実を知ったのは27歳になってからだったと、2014年8月にインタビュー取材をしたとき、当時28歳の藤井監督は話してくれた。
「海外だと日本人も台湾人も同じアジア人という概念で受け止められる。4歳までニューヨークで生活するなど幼少期から海外の人と接していて、自分が何人だなんて気にしていなかったが、日本にいるとやっぱり日本的ということを意識せざるを得ない。でも映画祭に行くと、台湾やシンガポール、インドネシアなど、海を渡って活躍する若い監督がどんどん増えている。僕はまだまだだけど、まずはアジア圏でしっかり闘っていって、10年後には日本代表として世界でも見てもらえる監督になりたいなと思っています」と未来を見据えていた。
それからちょうど10年。日本と台湾で撮影した日台合作「青春18×2 君へと続く道」を手がけ、すでに劇場公開された台湾では大ヒットを記録しているとは、藤井監督、まさに有言実行を地でいっている。
作品は、インターネットで話題を呼んだ台湾のジミー・ライ(藍狐)による紀行エッセー「青春18×2 日本慢車流浪記」を原作に、「牯嶺街少年殺人事件」(1991年、エドワード・ヤン監督)や「DUNE/デューン 砂の惑星」(2021年、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督)などで知られる国際派俳優のチャン・チェン(張震)が映画化を企画。台湾で大人気というシュー・グァンハン(許光漢)と日本の清原果耶の主演で、18年の時をまたいだ切なくもいとおしいラブストーリーを編み上げた。
ゲーム会社の若き経営者、ジミーは、自分が築いた会社の代表を突然、解任される。失意の中、台南の実家に帰省した彼は、1枚の古い絵はがきを見つける。それは高校生だった18年前にアルバイト先のカラオケ店で知り合った日本人バックパッカーの女性、アミから届いたものだった。代表としての最後の仕事を日本で終えると、ジミーは「青春18きっぷ」を利用して、鎌倉から松本、長岡、只見へと旅を続ける。アミとのひと夏の思い出を一つ一つ確かめるかのように……。
映画は、この2024年冬のジミーの日本旅行と、2006年夏のアミの台南での体験を交錯させながら、18年の時の重みを情緒たっぷりに描き出す。現在のジミーが旅を続ける中で初めて出会う人々とのつながりははかなく、淡々と通り過ぎていくのに対して、アミが18年前に過ごしたカラオケ店の仲間との関係は濃密だ。その対照的な旅情が、冬の日本と夏の台湾というコントラストを伴って、係り結びのように呼応する。真上から列車を俯瞰で捉えるなど、藤井監督お得意の工夫を凝らした映像処理も見事で、見ている側も現在と過去を行ったり来たりしながらジミーとアミの空白の18年間に思いを馳せていく。
2人の恋とも言えない淡い思いを彩る小道具として、日本のポップカルチャーが効果的に使われている点も見逃せない。漫画の「SLAM DUNK」や岩井俊二監督の映画「Love Letter」(1995年)、Mr.Childrenの音楽など、18年前の会話に忍ばせた記憶を18年後に追体験させる。台湾をはじめ、海外でもよく知られた日本文化の代表選手だけに、どこの国の人が見ても胸がきゅんとなる仕掛けだし、ほかにも長岡のランタン祭りや雪景色の只見線など、胸が締めつけられるような映像美がふんだんに登場する。3月に公開が始まった台湾に加えて、香港やシンガポール、マレーシア、ベトナムなどでも大いに評判を取っているというのもうなずける。
日台の役者陣の競演も見ものだ。特に驚くのは18歳と36歳を演じ分けたジミー役のシュー・グァンハンで、実年齢は33歳ながら、18年前の場面ではどう見ても高校生にしか思えない。そのジミーよりちょっと年上という設定のアミ役を演じた清原果耶も相変わらずの安定感で、台湾人キャストに交じって、けなげではっちゃけていながらどこか陰のあるバックパッカーになり切っている。36歳のジミーと絡むジョセフ・チャン、道枝駿佑、黒木華、松重豊、黒木瞳といった芸達者の面々もさることながら、台湾の出演陣の味わい深いたたずまいにも和まされた。
それに旅について語るアミのせりふがまたいいんだよね。「旅のゴールは?」と尋ねるジミーに「旅はゴールがないのが面白い」と答えたり、「自分探しというより、自分を確認するための旅」などとつぶやいたり、旅に関する至言はそのまま人生にも当てはまる。原作にあるのかもしれないが、脚本も手がけた藤井監督の言葉のセンスそのもので、映像の独創性も含めて世界に向けて着実に前進しているのは間違いない。(藤井克郎)
2024年5月3日(金)、東京・TOHOシネマズ日比谷など全国で公開。
©2024「青春 18×2」Film Partners
藤井道人監督の日台合作「青春18×2 君へと続く道」から。18年前、ジミー(右、シュー・グァンハン)は日本のバックパッカー、アミ(清原果耶)とバイト先で知り合う ©2024「青春 18×2」Film Partners
藤井道人監督の日台合作「青春18×2 君へと続く道」から。日本を旅する36歳のジミー(シュー・グァンハン)は…… ©2024「青春 18×2」Film Partners