「シネマスコーレを解剖する。 コロナなんかぶっ飛ばせ」菅原竜太監督

 全国の個性的な映画館を巡って、そこに集う人々の映画への思いをつづり始めてから、もう20年がたつ。北海道から沖縄まで、すでに閉館を余儀なくされた劇場も含めて60館以上に足を運んだが、残念ながら名古屋のシネマスコーレはいまだ一度も訪れたことがない。1983年に若松孝二監督が建てたミニシアターとしてその名は全国にとどろいていたものの、今さら取り上げるのもなあ、という気持ちがあったのかもしれない。取材とは別にふらっと寄ってみたということもなく、ミニシアターファンを自認する身としては誠に面目ない限りだ。

 2017年には、シネマスコーレの副支配人を務める坪井篤史さんに密着したドキュメンタリー「シネマ狂想曲 名古屋映画館革命」(樋口智彦監督)も全国で公開され、その破天荒さにますます目が離せない存在になったが、今度は同じ名古屋テレビ(メ~テレ)の制作で、コロナ禍にあえぐ同館の奮闘ぶりに迫った作品が誕生した。ドキュメンタリー映画「シネマスコーレを解剖する。 コロナなんかぶっ飛ばせ」は、支配人の木全純治さんを中心にシネマスコーレの日々を追うとともに、同館や故若松監督にゆかりの映画人らを多角的に取材。単に一地方都市の映画館の現状のみならず、現在の日本における大衆文化の脆弱さ、ひいては文化行政の貧困さまでもが浮き彫りになった深みのある作品に仕上がっている。

 木全さんは39年前の創業当初から支配人を務めているが、この映画では、それまで面識のなかった若松監督から直々に支配人を依頼されたことに始まり、シネマスコーレにまつわるさまざまなエピソードを披露。と同時に、ピンク映画からスタートし、前衛作品に大衆娯楽作、社会派と幅広く手がけながら、一貫して反体制に徹していた若松監督譲りの反骨精神が随所に顔をのぞかせる。例えばある地方の映画館が、コロナ対策で観客の名前と連絡先を記入させているという情報が入ったときなど、木全さんは「全くあり得ません」と怒りの表情をにじませる。映画館だけでなく、パチンコ店やカラオケ、ライブハウスなど、同じように苦しんでいる業種のことを思ったら、そんなことはできるわけがないというのだ。

 とは言うものの、コロナ禍で客足が激減した状況に全く手をこまねいているわけではない。緊急事態宣言で閉館中は、自らロビーの床の張り替え作業を1人でやっているし、地元の専門医などとともに、映画館内の換気の実証実験を行ったりもした。この実験の結果は全国に発信され、おかげで今や映画館は、3密どころか感染予防が徹底している理想的な空間だとの認識が定着している。

 加えてこの映画の深いところは、木全さんらシネマスコーレのスタッフの頑張りを柱に据えながらも、決して一映画館だけの話にとどまっていないことだ。俳優で映画監督もこなす奥田瑛二を筆頭に、入江悠、深田晃司、白石晃士といった次代を担う監督たちへのインタビュー、さらには韓国・ソウルのアート系映画館「アートナイン」の担当者にもリモートで取材。日本のミニシアターの存在意義を改めて検証するとともに、こんなにも文化的に重要な場所が、政治的、社会的にいかに冷遇されているかという事実を指摘する。その描写は過度に情緒的に訴えることなく、メ~テレのディレクターである菅原竜太監督はじめ、テレビマンらしい抑制が効いているが、いかんせん木全さんはあくまでも熱い。彼の熱情、反骨性が映画の制作陣にも伝播する瞬間がたびたび見受けられ、ぐっと胸に迫ってきた。

 映画の中で木全さんが「東京は反文化都市」と評するように、とにかくここには東京にはない地方ならではの豊かな文化がしっかりと根付いていることが鮮烈に伝わってくる。こりゃあやっぱり、一度はシネマスコーレに行かなくっちゃね。(藤井克郎)

 2022年7月2日(土)から、新宿K’s cinemaなど全国で順次公開。

©メ~テレ

ドキュメンタリー映画「シネマスコーレを解剖する。 コロナなんかぶっ飛ばせ」から。シネマスコーレ支配人、木全純治さんのやる気魂が炸裂する ©メ~テレ

ドキュメンタリー映画「シネマスコーレを解剖する。 コロナなんかぶっ飛ばせ」から。休館中、1人でロビーの床の張り替え作業を行う支配人の木全純治さん ©メ~テレ