「Tribe Called Discord:Documentary of GEZAN」神谷亮佑監督
勉強不足で誠に申し訳ないが、GEZANというバンドのことは、この映画で初めて知った。ボーカルとギターのマヒトゥ・ザ・ピーポー、ギターのイーグル・タカ、ベースのカルロス尾崎、ドラムスの石原ロスカルの4人からなるロックバンドで、「全感覚祭」と称した野外フェスを主催するなど、幅広く人気を集めているらしい。
全感覚祭の熱狂ぶり、彼らの音楽性の豊かさ、社会意識の高さは、この映画の終盤で十分に伝わってくるし、映画のタイトルをなぜ「葛藤という名の部族」という意味の英語にしたかというのもよくわかる。ただ映画は決して彼らの音楽活動を映し出すだけにとどまってはいない。これって本当にGEZANのドキュメンタリーなの?と思うくらい、途中で大いなる混乱が生じるのだが、その混乱にもかかわらず、社会的にも芸術的にも本質を突いたかなり深い作品に仕上がっていて、GEZANの底力を見せつけられた気がした。
映画の前半、GEZANの4人は手作りのアメリカツアーに出かける。ごく普通の住宅街のガレージで深夜のライブを行ったりして、現地の人たちもノリノリで受け入れてくれるのだが、ツアーの後半、ネイティブアメリカンの人たちと交流し、彼らの怒り、悲しみを全身で受け止めたことで、音楽的にも生き方の上でも格段の飛躍を見せる。街角にスプレーで書かれた「Silence Will Speak」の言葉から同名の新作アルバムが生まれ、その曲を引っ提げて全感覚祭に臨むのだが、こうした音楽上の本筋とは関係がなさそうに見える部分で、映画は驚きの展開を見せる。
ネタバレになるからあまり多くは語らないが、アメリカツアー中も、日本に帰国後も、一番目立っているのは、どっちかというとGEZANの4人よりも、撮影、編集もこなす神谷亮佑(かんだに・りょうすけ)監督なのだ。
プレス資料によると、神谷監督は1988年の生まれ。ということは89年生まれのマヒトゥ・ザ・ピーポーとほぼ同年代だが、これまでライブ映像やミュージックビデオを手がけてきた映像作家で、映画は今回が初監督になる。GEZANとは8年前に出会って以来の盟友だという。
この神谷監督が熱い。ネイティブアメリカンの人たちと会って一番感化されたのは監督のようで、全編にわたって熱いナレーションを重ねる。だが監督が熱くなればなるほど、マヒトゥらGEZANのメンバーの深い人間性が際立ち、魂を音楽に昇華させる才能が鮮やかに伝わってくる。こんな手法でも、というよりもこんな手法だからこそ、本物が本物としてきちんと映し出されるのかもしれない。
全感覚祭に参加していたバンド、THE NOVEMBERSのメンバーがインタビューに応えて「このフェスは、みんな一つになろう、ではなく、バラバラのままで集まっているのがいい」といった意味の言葉を語っていたが、文化の多様性をそのまま尊重しようと努めているのがGEZANであり、それが映画のタイトルにもつながっていく。図らずもGEZANのすごみを思い知ることになった。(藤井克郎)
2019年6月21日から東京・シネマート新宿、28日から大阪・シネマート心斎橋など全国順次公開。
© 2019 十三月/SPACE SHOWER FILMS
映画「Tribe Called Discord:Documentary of GEZAN」から © 2019 十三月/SPACE SHOWER FILMS
映画「Tribe Called Discord:Documentary of GEZAN」から © 2019 十三月/SPACE SHOWER FILMS