「建築と時間と妹島和世」(ホンマタカシ監督)

 新型コロナウィルスの感染拡大で改めて浮き彫りになったのが、ミニシアターという日本独特の映画文化の重要性だった。国からの援助がほとんどないにもかかわらず、全国各地に小規模な映画館がいくつも存在し、国際映画祭で評価された異色作や若手監督による野心作といったシネコンではかからないような多彩な映画を上映する。このような状況は海外では珍しいようで、自作のプロモーションで来日してミニシアター文化に触れ、その頑張りに驚嘆の声を上げる世界の映画人は少なくない。

 そんなミニシアターがコロナ禍で休館を余儀なくされ、存続の危機に立たされた。すわ一大事、と多くの映画人が立ち上がり、国に援助を求める署名を集めたり、クラウドファンディングで助成金を募ったりと、さまざまな形の支援活動を展開。今のところ、バタバタバタとミニシアターが倒れていくという最悪の事態にはなっておらず、とりあえずほっとしているといったところだ。

 この「建築と時間と妹島和世」などは、恐らくミニシアターがなければ上映されることがない作品の筆頭と言っていいかもしれない。

 建築家の妹島和世が設計した大阪芸術大学の新学科、アートサイエンス学科の校舎が完成するまでの3年半という時間をとらえたドキュメンタリーで、上映時間からして60分と、劇場公開するには中途半端な長さになっている。妹島は、建築界のノーベル賞と称されるプリツカー賞を2010年に受賞しているほどの俊英だが、マスコミにどんどん顔を出して誰でも知っている人気者というわけではない。監督を務めたホンマタカシも写真家としてかなりの実績があるとはいえ、わざわざこの映画を見に映画館に足を運ぶとしたら、建築好きか、写真好きか、あるいは大阪芸大の関係者くらいではないか。

 と思ったら、映画としてもなかなか奥深い作品になっていた。

 インタビューの対象は妹島だけで、しかもホンマ監督はスマホサイズやインスタサイズで撮影するなど、ごくごくラフな感じで話を聞いている。とともに、新学科の建築場所を3年半にわたって定点で観察し続けた映像を、早送りでパッパッパッと差しはさむ。なんにもなかった自然の丘が、妹島の語る構想通りに変貌していく過程は、それだけで十分に芸術的だ。

 建設中の現場を妹島が訪れた際も、定点カメラで遠くから眺めるだけで、ちっとも彼女に近寄らない。工事責任者らと何を話しているのかもよくわからず、でも創造者の意志をすっぽり包み込むような建築物の威容が伝わってきて、これもホンマ監督の狙いなのかなと思ったりした。

 最初は大きな1枚屋根にする予定が、予算の関係で数枚の組み合わせにせざるをえないといった建築の理想と現実の葛藤も描き込まれていて、芸術の本質にもちょっとばかり触れたような気がする。なにせこの作品、新校舎を有する大阪芸術大学の製作で、配給は1982年から東京・渋谷でミニシアターを運営するユーロスペースが手がけている。こんな個性的な映画の上映機会を奪わないためにも、やっぱりミニシアターはなくしちゃいけないね。(藤井克郎)

 2020年10月3日(土)からユーロスペースなど全国順次公開。

ホンマタカシ監督作品「建築と時間と妹島和世」から、完成した妹島和世設計の大阪芸術大学アートサイエンス学科新校舎

ホンマタカシ監督作品「建築と時間と妹島和世」から、建築現場を訪れた妹島和世