「ドロステのはてで僕ら」(山口淳太監督)

 これはもう驚きを通り越して、興奮で飛び上がらんばかりだった。恐らくあと10回見直したところで、どうやって撮影したのか解き明かすことはできないだろう。2018年に低予算映画の「カメラを止めるな!」(上田慎一郎監督)が評判を呼んだが、この仕掛けとこの面白さなら、あの作品以上の話題になるかもしれない。とにかく存在すること自体が信じられない映画と言っていい。

 ある男が1階のカフェに顔を出して、従業員と軽く挨拶した後、外階段を上って2階の自分の部屋へと入っていく。ほお、ここまでワンカットの長回しか、と悠長に構えていたら、すぐに今まで見たこともない怒涛の展開が待っていた。

 男が部屋でギターピックを探していると、テレビから声がする。振り向くとそこには自分が映っていて、何と2分後の自分なのだと主張する。まるでわけがわからないまま、男は2分後の自分に言われる通り階下のカフェに降りていくと、カフェのテレビにはギターピックを探している自分が映っている。「おい」と声をかける自分は、まさにさっき2階で画面に映っていた自分だった。

 といった感じで、2分後の過去と未来が2階と1階のテレビ画面を通して複雑に繰り広げられる。カフェの従業員やら友達やら登場人物も増えてきて、さらに4分後の未来、6分後の未来と、2台のテレビを組み合わせることで延々と時がつながっていく。画面に映っているのは実際にカフェにいる人たちだし、これが一切ノーカットで見せられるものだから、いったい過去の映像はいつ撮ったの? と、もう頭の中は大混乱をきたしている。

 などと言葉で説明すると、何だか小難しい映画のように思えるかもしれないが、基本はコメディーで、これに恋愛あり、アクションありと、ふくよかなドラマが展開する。シンバルを持って出ていったり、ダンゴムシのガチャガチャおもちゃが出てきたりと、意味不明の伏線がいっぱい張り巡らされるが、その回収の仕方も抱腹絶倒の連続で、とにかく笑っていない暇がないくらい笑いっぱなし。あと10回はともかく、何度でも見返したいという思いは募る。

 原案と脚本は人気劇団「ヨーロッパ企画」を主宰する上田誠で、劇団の映像ディレクター、山口淳太が監督、撮影、編集を務める。出演者も主役を演じた土佐和成をはじめ、劇団のメンバーが名を連ねていて、なるほど息の合った仲間だからこそできた神業かもしれない。それにしても、よくこの無謀な企画を実現しようとしたものだし、どれだけリハーサルをしたかわからないが、スタッフもキャストも並大抵の苦労ではなかったのではないか。その勇気とチャレンジ精神には、いくら拍手を送ってもしすぎることはない。

 ちなみにタイトルのドロステとはオランダのココアメーカーの名前で、そのココアの箱には、同じ箱を持った女性が描かれている。つまり絵の中の箱にもまた同じ箱が描かれていて、その中にもまた小さな箱が描かれているという具合で、同じ絵が果てしなく続く。さてその連続性の果てで何が起こるのか。さわやかさが漂うラストも悪くない。

 4月の公開予定が延期になっていたが、緊急事態宣言の解除で急に初日が決まった。まだまだコロナ感染の不安はあるものの、急げ、劇場へ。(藤井克郎)

 2020年6月5日(金)から下北沢トリウッド、京都シネマなど全国順次公開。

©ヨーロッパ企画/トリウッド2020

日本映画「ドロステのはてで僕ら」から ©ヨーロッパ企画/トリウッド2020

日本映画「ドロステのはてで僕ら」から ©ヨーロッパ企画/トリウッド2020