「コロンバス」(コゴナダ監督)

 アメリカ映画と聞くと、どうしてもハリウッド製の派手な大作映画を思い浮かべてしまうが、しっとりとしたアート作品もたくさん作られている。この「コロンバス」も、そんなふうに表面上は実に穏やかな映画なのだが、登場人物はかなり激しい葛藤を抱えていることがわかって、表現の豊かさに驚いたというのが正直なところだ。

 舞台は米中西部インディアナ州のコロンバス。隣のオハイオ州にも同じ名前の大都市があるが、こちらはエリエル・サーリネン、エーロ・サーリネン親子やイオ・ミン・ペイ、ハリー・ウィーズ、リチャード・マイヤーといった名建築家の設計によるモダニズム建築の宝庫として知られる小さな都市だ。韓国系アメリカ人のジン(ジョン・チョー)は、建築学者の父親が倒れたとの知らせを受け、父親が住むここコロンバスにやってくる。そこで出会ったのが、この街の建築に詳しい若い図書館員のケイシー(ヘイリー・ルー・リチャードソン)だった。

 この2人がたどるモダニズム建築の映像美、カメラワークの巧みさに目を奪われる。メインに登場するのが、エリエル・サーリネン設計のファースト・クリスチャン教会で、「シンメトリーではないところが魅力」と言いながら、これを見事なシンメトリーで映し出す。ほかにも、蔵書で埋め尽くされた図書館の壁や赤いアーチ型の橋など、左右対称でとらえた構図がすばらしい。

 さらにジンが宿泊するホテルも、ケイシーの自宅も、ジンの父親が入院する病院も、同じように狭い通路越しに向こうを見通す位置にカメラを据え、何とも心地よいリズムを刻む。人物も、1人で黙ったままの表情をじっくり長回しで見せるショットが多く、静謐な雰囲気を漂わせる。

 だが実のところ、ジンもケイシーも心中は決して穏やかなわけではない。ジンはこれまで疎遠にしていた父親が死を迎えているし、ケイシーは母親の面倒を見なければならない現実にうんざりしている。でも2人ともそんな苦悩はおくびにも出さず、高尚な芸術談義を交わす。せりふにある「建築には癒やしの効果がある」ということを、まさに映画で実証しているかのようで、その挑戦的な姿勢にぞくぞくした。

 これが初の長編監督作となる韓国系アメリカ人のコゴナダ監督は、もともと批評家として小津安二郎映画を研究してきたらしい。コゴナダという名前も、小津作品の脚本家として知られる野田高梧から取ったそうだが、確かに通路の先のカメラ位置も、場面転換の際にはさまれる建築物のショットも、どことなく小津風と言えなくもない。何より、2人とも心理状態はかなり乱れているはずなのに、こんなにも落ち着いた映像で表現するとは、美しい描写の中に不倫のどろどろも親子の断絶も包み込んだ小津映画に通底するところがある。アメリカ映画の奥深さを改めて思い知った一作だった。(藤井克郎)

 2020年3月14日から東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムなど順次公開。

©2016 BY JIN AND CASEY LLC ALL RIGHTS RESERVED

アメリカ映画「コロンバス」から。モダニズム建築の街で見知らぬ2人が出会う ©2016 BY JIN AND CASEY LLC ALL RIGHTS RESERVED

アメリカ映画「コロンバス」から。モダニズム建築の街で見知らぬ2人が出会う ©2016 BY JIN AND CASEY LLC ALL RIGHTS RESERVED