「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」(ビー・ガン監督)

 ワンカット長回しというと、普通はカットを割らずにカメラを回し続けて撮影することを指すが、最近はデジタル技術の進化で、あたかも長回しで撮影されたように編集で見せることが可能になった。今年のアカデミー賞で撮影賞などを受賞した「1917 命をかけた伝令」(サム・メンデス監督)も、全編ワンカット映像とうたってはいるものの、撮影には2か月を費やしている。

 どこでカットをつないだかわからない見せ方はさすがというほかないが、映像のマジックという点では、中国新世代の旗手、ビー・ガン(畢贛)監督による長編第2作「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」も負けてはいない。いや、むしろどうやって撮ったのかわからないという点では、はるかに超えているような気がする。

 舞台は中国南西部に位置する貴州省の町、凱里。ビー・ガン監督の故郷でもあるこの町に、ルオ・ホンウ(ホアン・ジェ)という男が帰ってくる。夜道をさまよいながら、彼はある女の影を追っていた。ワン・チーウェンと名乗っていた緑色の服を着た女(タン・ウェイ)は、果たしてこの町にいるのか、それともルオの記憶の中だけに存在するのか。記憶と空想が交錯する中、彼は映画館の座席に腰を沈め、3Dめがねをかける。

 と、ここまでの展開もまさにイメージの世界で、現実なのか妄想なのか、現在なのか過去なのか、何の説明もなくルオの独白と抑揚のないせりふで繰り広げられるが、驚くのはここからだ。3D映像となった後半の60分はワンカットの長回しで、恐らくルオが見ているであろう映画か、あるいはルオがまどろんでいる夢の中か、何とも不思議な情景が信じられないようなカメラワークで映し出される。

 これがどれほど驚異的かは実際に見てもらうしかないが、めくるめく幻想世界が立体映像で眼前に飛び出てくるのだから、その陶酔感と言ったらたとえようがない。いきなり薄暗い洞窟のような部屋に入ったかと思えば、少年と卓球をして、次はその少年と一緒にバイクで移動。高台からケーブルにぶら下がって崖下に到着するとビリヤード場があり、今度は宙を飛んで音楽イベントが開かれている広場に舞い降りて……、とこんな危険な冒険をよくもワンカットで再現したものだと感心する。途中、リンゴの積み荷を背負った馬と行き交い、ぐるっと路地を巡った後でまたその馬と再会し、リンゴを一つ失敬するという何とも大胆な要素があるが、このときに馬が暴れ出すのは、果たして演出なのか、予期せぬハプニングだったのか。すべての瞬間がそれまでの既成概念を覆すようなイメージの連続で、ビー・ガン監督の果てしない想像力にはうなるしかない。

 しかもすごいのはこのワンカット撮影だけではない。前半の2D部分ではいつも緑色のワンピース姿で出てきたタン・ウェイが、後半は赤い服の別人になって登場する。この緑系統と赤系統の映像の対比が実に鮮やかでほれぼれするし、音楽も中島みゆきの歌など、どこか懐かしい音調に彩られていて心地よい。思いっきり観客を選ぶ作品だと言えるだろうが、当方はすっかりはまってしまった。ビー・ガン監督がこの前に撮った長編デビュー作「凱里ブルース」(2015年)も4月に初公開されるというから、また楽しみだ。(藤井克郎)

 2020年2月28日、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿ピカデリーなど全国で公開。

© 2018 Dangmai Films Co., LTD – Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD / ReallyLikeFilms LCC.

中国・フランス合作「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」から。夜の街をさまようルオ・ホンウ(ホアン・ジェ)は…… © 2018 Dangmai Films Co., LTD – Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD / ReallyLikeFilms LCC.

中国・フランス合作「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」から。ルオ・ホンウ(ホアン・ジェ)はワン・チーウェン(タン・ウェイ)の影を探し求める © 2018 Dangmai Films Co., LTD – Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD / ReallyLikeFilms LCC.