「マザーレス・ブルックリン」(エドワード・ノートン監督)

 2020年の新年とっ始めは、昨年のカンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いた韓国映画「パラサイト 半地下の家族」(ポン・ジュノ監督)のことを書こうかと考えていた。ところが1月10日全国公開のはずが、すでに年末の12月27日には東京と大阪で先行上映が始まり、ポン監督に主演のソン・ガンホまで来日して舞台挨拶を行っている。別に公開前夜の掲載にこだわるわけではないんだけど、ほかにもいい映画はいっぱいあるんだし、今回は当コーナーでは珍しくハリウッドの王道娯楽作を取り上げてみようかなと思う。

 なにせこの「マザーレス・ブルックリン」、監督を兼ねる主演のエドワード・ノートンをはじめ、ブルース・ウィリス、アレック・ボールドウィン、ウィレム・デフォーとおなじみの顔がずらっと名を連ねる豪華版。1950年代のニューヨークを再現した時代色といい、手に汗握るハラハラドキドキのサスペンスといい、ウィントン・マルサリスらによるしっとりとしたジャズの調べといい、「チャイナタウン」(1974年、ロマン・ポランスキー監督)などに代表される本格派探偵映画の系譜をきっちりと受け継いでいて、いかにも映画らしい映画にどっぷりと浸ることができた。

 ノートン監督が演じる主人公、ニューヨークの探偵事務所で働くライオネルは、トゥレット症候群という神経系の障碍を抱えていた。孤児だったライオネルを一人前に育ててくれたボスのフランク(ブルース・ウィリス)に恩義を感じていたが、ある日、自分の目の前でフランクが殺されてしまう。ボスはいったいどんな事件を追っていて、なぜ殺されなければならなかったのか。わずかな手掛かりを頼りに、ライオネルはハーレムにあるジャズクラブへと足を踏み入れる。

 このライオネルの人物像が何ともユニークで、映画に付加的な魅力をもたらしている。自分の意志に反して突然「if(もし)」などと奇声を発してしまう障碍のため、周囲からはまるで有能とは見られないのだが、実は人並外れた記憶力を有する凄腕探偵なのだ。ボスのフランクはその能力を認めていたが、探偵事務所の同僚をはじめ、初対面の人たちはみんな侮って接してくる。しかも女性にはおくてで、一般常識にも乏しく、いわゆるヒーロー像からは程遠い。そんな性格づけが、重厚な推理劇に深みを加えている。

 彼が取り組む事件そのものは、政治がらみの不正と、人種差別が根っこにある出生の秘密が絡み合った複雑なもので、この部分であまりにも根詰めてしまうと、映画そのものを楽しめなくなるかもしれない。それよりも1950年代のニューヨークに思いをはせて、ジャズの心地よいメロディーにゆったりと身を任せるのが幸せな鑑賞法というものだろう。

 作品資料によると、原作は1999年に刊行されたジョナサン・レセムの同名小説で、現代のニューヨークが舞台らしい。なるほど、人種差別や障碍者への視点など、今日に通ずる社会性はそこにあるのかと思ったが、映画化に当たってあえて1950年代に設定したというのもよくわかる。探偵映画の名作の数々に対するノートン監督の畏敬の念が伝わってきて、またちょっぴり幸せな気分になった。(藤井克郎)

 2020年1月10日、新宿ピカデリーなど全国で公開。

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アメリカ映画「マザーレス・ブルックリン」から。ローラ(左、ググ・バサ=ロー)の出生の秘密に迫るライオネル(エドワード・ノートン)は…… © 2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

アメリカ映画「マザーレス・ブルックリン」から。ライオネル(中央、エドワード・ノートン)はボスのフランク(左、ブルース・ウィリス)を慕っていたが…… © 2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.