「こはく」(横尾初喜監督)

 タイトルの通り、琥珀色の温かみに包まれたどこか懐かしい日本の心象風景が広がっている作品だ。

 舞台は長崎県。これが長編2作目となる横尾初喜監督の出身地で、自身の体験を基にオリジナルの物語を紡いだ。

 ガラス細工会社を経営する亮太(井浦新)は、幼いころに家を出ていった父と同じように自身も離婚を経験し、2人の息子とはしばらく会っていない。再婚した妻が身ごもり、新たな子を持つことに不安を覚える亮太だったが、そんなとき、仕事もせずにぶらぶらしている兄の章一(大橋彰)が、街で父を見かけたと言ってきた。2人で父の居場所を捜すうち、2人の間で父への思いに隔たりがあることに気づく。

 果たして父は本当に生きているのか。なぜ家族を置いて出ていったのか。という謎解きのサスペンスとともに、兄弟を中心とする家族の葛藤が、長崎の穏やかな風景に溶け込んでしっとりと描かれる。作品全体のトーンが、淡く紗がかかったような薄ぼんやりとした雰囲気で、記憶の中の長崎というものをイメージしているよう。横尾監督が故郷で体験した喜びや悲しみを、すべて琥珀色の思い出の中に閉じ込めようということなのだろうか。じんわりと余韻を残すカット尻や、ちょっと長めのカット間の黒味など、編集にもゆったりとしたテンポを刻もうという意図が見て取れる。

 そんな中で異彩を放っているのが、兄の章一のキャラクターだ。演じる大橋彰は、アキラ100%の芸名で活躍するお笑い芸人で、お盆を使った全裸芸が売りだが、映画ではその芸風は封印している。とは言え、父親捜しの鍵を握る人物をアパートに訪ねた際、隣室の女性に言い寄るなど、深刻な状況なのにふざけた行動に及んだりする。笑いを意識したものなのかどうなのか、正直言って戸惑うばかりだが、聞けば横尾監督のお兄さんが実際にああいう人らしい。なるほど、われわれの戸惑いは監督自身の戸惑いなのかもしれない。

 父親の描写も凝っていて、亮太が子供のころの父親像を、前半と終盤とではちょっと不思議な手法で描き分ける。長編第1作となる「ゆらり」(2017年)でも、現在と過去と未来が絡まるファンタジー感あふれる物語を絶妙な配役で表現していた横尾監督だが、時間の経過と心情の変化をこういう形で織り上げるとは、ちょっとした驚きがあった。もともとミュージックビデオを数多く手がけてきた監督のようだが、個性的な映像センスにますます磨きがかかったようだ。(藤井克郎)

 2019年7月6日から東京・ユーロスペース、シネマート新宿など全国で順次公開。

© 2018「こはく」製作委員会

映画「こはく」から。父の行方を捜す亮太(左、井浦新)と兄の章一(大橋彰)だが… © 2018「こはく」製作委員会

映画「こはく」から。亮太(左、井浦新)は再婚した妻(遠藤久美子)との間に新たに子をもうけるが… © 2018「こはく」製作委員会