「COLD WAR あの歌、2つの心」(パヴェウ・パヴリコフスキ監督)

 昨年のカンヌ国際映画祭は、どうやらまれに見るハイレベルの競演だったようだ。最高賞のパルムドールを受賞した「万引き家族」(是枝裕和監督)がかすんでしまうくらい刺激的な出品作品が次々と日本に押し寄せて、いつまでも楽しませてくれている。パルムドールに次ぐグランプリを獲得した「ブラック・クランズマン」(スパイク・リー監督)も見応えがあったが、脚本賞の「幸福なラザロ」(アリーチェ・ロルヴァケル監督)の驚くべき展開にはぞくぞくした。受賞は逃したものの、「アンダー・ザ・シルバーレイク」(デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督)、「バーニング 劇場版」(イ・チャンドン監督)、「誰もがそれを知っている」(アスガー・ファルハディ監督)、それに日本の「寝ても覚めても」(濱口竜介監督)と、どれもこれも何か語らずにはいられない作品ばかり。スペシャル・パルムドールが贈られた「イメージの本」(ジャン=リュック・ゴダール監督)もあったしね。

 そんな中、満を持して公開されるのが、ポーランドが生んだ鬼才、パヴェウ・パヴリコフスキ監督の「COLD WAR あの歌、2つの心」だ。カンヌで監督賞に輝いたほか、今年のアカデミー賞では監督賞、撮影賞、外国語映画賞にノミネートされたが、対抗馬が「ROMA/ローマ」(アルフォンソ・キュアロン監督)でなかったら、すべて受賞したとしてもおかしくないほど、芸術性と社会性を兼ね備えた驚愕すべき娯楽作になっている。

 1949年のポーランド。社会主義体制がスタートしたばかりのこの国の民族合唱舞踊団で、歌手志望のズーラ(ヨアンナ・クーリグ)はピアニストのヴィクトル(トマシュ・コット)と出会う。互いに惹かれ合う2人だが、東ベルリンでの公演で西側への亡命を決意するヴィクトルの求めに、ズーラは応じなかった。やがて東西冷戦の緊張が高まってくる世情に、2人の思いは翻弄されていく。

 アカデミー賞外国語映画賞を受賞した前作「イーダ」同様、正方形に近いスタンダードサイズのモノクロ画像で、時代と心情を鮮やかに切り取っていく。さらに驚くべきは音楽の使い方で、舞踊団のオーディションに登場する素朴な民族音楽が、アレンジを変えてさまざまな場面で流れる。合唱団の一員として力強く歌うのと、ナイトクラブでジャジーに歌うのとではまるで曲調が異なるが、印象的な「オヨヨ」(本当はオヨヨーイだそうだが)のフレーズで、すべて同じ曲だとわかる。いや、すごい曲を見つけてきたものだ。

 曲調が変わるのに合わせて、ズーラの外見も表情も変わる。1949年から64年までの15年間に起きたさまざまな激動の体験を感じさせて、でも同一人物として全く違和感がないというのは、演じたクーリグ、何ともすさまじい女優としか言いようがない。バーで酔っ払ってとろんとした目をしていた彼女が、音楽が流れると同時に目に光が宿って表情が生き返る。この一連の瞬間をカメラに収めただけでも、パヴリコフスキ監督の大手柄と言えるのではないか。

 スタンダードサイズの映像もめちゃめちゃかっこよく、パリの裏道も、ポーランドの教会も、ベルリンの廃墟も、すべて2人の魂が織り込まれているようでみずみずしい。決して暗すぎず、明るすぎず、でも確実にあの時代といま現在とが同時に映りこんでいる。こんな奇跡を成し遂げるとは、パヴリコフスキ監督の今後からますます目が離せない。(藤井克郎)

 2019年6月28日から東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開。

映画「COLD WAR あの歌、2つの心」から。ズーラとヴィクトルの2人の心は時代に翻弄される

映画「COLD WAR あの歌、2つの心」から。民族合唱舞踊団に入ったズーラは…