「種をまく人」(竹内洋介監督)

 何ともやるせない作品だ。誰も責められないのに、どんどん悪い方向に転がっていってしまう。何か人間のさがみたいなものを突きつけられているようで、これが初長編という竹内洋介監督の感性の鋭さに唸った。

 光雄(岸建太朗)というちょっとむさくるしいひげ面の男が、弟の裕太(足立智充)一家の前に現れる。久しぶりの再会らしく、裕太は妻(中島亜梨沙)と娘2人がいる自宅にこの兄を迎え入れて、一緒に夕餉を囲む。このときの10歳の長女、知恵(竹中涼乃)のはしゃぎっぷりが実にいい。目をキラキラさせて、伯父さんが東日本大震災の被災地でひまわりの花を見たときの話に耳を傾ける。そうして無邪気な表情のまま、まだ幼い妹の一希は自分に似ていないとドキリとする言葉を吐く。光雄はなぜか大粒の涙をこぼす。

 この一連の場面に、この家族の置かれた状況が集約されている。光雄はなぜ久しく弟たちと会っていなかったのか。一希はどこが姉の知恵と似ていないのか。せりふで直接、説明されることはないが、会話の端々から病気のこと、障害のことなどが伝わってきて、それが後々の悲劇へとつながっていく。

 明くる日、光雄は知恵、一希姉妹を連れて公園に遊びにいき、ここでとんでもないことが起こってしまう。前夜の家族の会話では最小限の情報しか提示していなかったのに、この場面では映像ですべてをさらけ出す。われわれ観客全員が、3人にしか知りえないことの目撃者になるのだ。映画の中のほとんどの登場人物は、ここで何が起きたのかを知らない。だから裕太や妻の葉子らの反応にはイラっとし、ぬかるんだ泥の中にひざまずいてひまわりの種をまき続ける光雄の行動に、胸がギュッと締めつけられる。この鮮やかな映画話法は見事というしかない。

 出演者の演技のすごみにも圧倒される。光雄役の岸は監督や撮影も手がけるクリエイターで、この作品でも撮影監督を兼務しているが、内面の苦悩を抱えた複雑な人間性をよくここまで表現したものだと感心する。さらに驚くのは知恵を演じた竹中の表情だ。夕餉の場面ではあんなにきらきら輝いていたのに、後半の知恵は全く顔を挙げず、ずっとうなだれたまま。かつての明るかった知恵はどんな表情だったか思い出せないほどで、テッサロニキ国際映画祭(ギリシャ)で史上最年少の主演女優賞を受賞したのも納得のすさまじさだった。

 この映画祭では竹内監督も監督賞に輝いているし、ほかにもストックホルム国際映画祭(スウェーデン)、ファジル国際映画祭(イラン)など世界各地で評判を取っている。もともとゴッホの苦難に満ちた人生に着想を得て作られたそうだが、冒頭の東日本大震災の映像を含め、世の中にはどうしても避けられない苦難があり、でもそれをどう乗り越えるかが大切ではないかとのメッセージが心に響く。また一人、楽しみな監督が現れたものだ。(藤井克郎)

 2019年11月30日、東京・池袋シネマ・ロサで公開。

© Yosuke Takeuchi

映画「種をまく人」から、知恵役を演じる竹中涼乃 © Yosuke Takeuchi

映画「種をまく人」から、光雄役の岸建太朗 © Yosuke Takeuchi