「決算!忠臣蔵」(中村義洋監督)

 これまで数多くの映画人に出会ってきたが、若いころに取材した人がその後、順調にキャリアを重ねているのを見ることほど楽しみなことはない。そんな一人に中村義洋監督がいる。1999年にBOX東中野でレイトショー公開された「ローカルニュース」のときにインタビューをしたのだが、自主制作で手がけたこの劇場デビュー作は、思いっきり脱力感の漂う意表を突いたコメディーで、あまりの怪作ぶりに身震いするほど興奮したものだ。出演者も素人だらけで、後で知ったけど、「14の夜」の足立紳監督も出ているんだよね。

 そのときの取材で、中村監督は「今度はちゃんとした役者さんをそろえて、ちゃんとした芝居をやろうかとも思っている」と話していたが、それから8年後、伊坂幸太郎の小説を映画化した「アヒルと鴨のコインロッカー」(2007年)が大評判を取る。その後、「チーム・バチスタの栄光」(08年)、「ゴールデンスランバー」(10年)、「白ゆき姫殺人事件」(14年)、「殿、利息でござる!」(16年)などなど、大手配給の大作映画に引っ張りだこの存在になったのは喜ばしい限り。

 で、今度は忠臣蔵である。赤穂浪士の四十七士が、主君・浅野内匠頭の無念を晴らそうと吉良邸に討ち入ったあの物語だ。これまでに何度も映画で描かれてきた演目で、中でも時代劇全盛期の1950年代は毎年のようにオールスターキャストで作られ、ヒーローの大石内蔵助は、片岡千恵蔵、市川右太衛門、大河内伝次郎、長谷川一夫と、名だたる時代劇スターが競演を繰り広げた。

 そんな定番の題材を、今回はお金という斬新な観点で切り取ってみせた。堤真一演じる内蔵助と並んでこの作品の柱となる人物が、赤穂藩の勘定方、矢頭長助(岡村隆史)。血気にはやる番方(いわゆる体育会系)の無駄遣いを、長助をはじめとする役方(いわゆる文化系)がいさめるという構図で、その間に入って粋人の大高源五(濱田岳)らが右往左往するという展開が愉快極まりない。軍資金の出し入れなど、すべての費用を現在の価格に換算してテロップで流すというアイデアも秀逸で、歴史学者の山本博文が著した新書が原作だそうだが、映像ならではの工夫が巧みに施されていた。

 さらに忠臣蔵らしいオールスターキャストも見逃せない。製作協力に吉本興業が入っており、長助役の岡村隆史のほかにも、西川きよし、桂文珍、木村祐一といった吉本所属の大物が、堤真一、濱田岳、妻夫木聡、阿部サダヲ、竹内結子、石原さとみら名優と丁々発止のやり取りを披露する。決して吉本系だけが笑いを担当しているわけではなく、まじめそうな俳優が何とも滑稽な役を演じるなど、その匙加減はさすが中村監督、相当な場数を踏んできただけのことはある。「ちゃんとした役者」による「ちゃんとした芝居」でも脱力系の笑いを提供できるということを、しっかりと証明してみせた。(藤井克郎)

 2019年11月22日、全国公開。

©2019「決算!忠臣蔵」製作委員会

映画「決算!忠臣蔵」から、大石内蔵助(左、堤真一)と矢頭長助(岡村隆史) ©2019「決算!忠臣蔵」製作委員会

映画「決算!忠臣蔵」から、討ち入りの陣頭指揮を執る大石内蔵助(中央、堤真一)。果たして軍資金は足りるのか? ©2019「決算!忠臣蔵」製作委員会