「108~海馬五郎の復讐と冒険~」(松尾スズキ監督)

 松尾スズキといえば、劇団「大人計画」を率いて数多くの役者を育て上げてきたほか、小説は3度も芥川賞にノミネート。映画も初監督作の「恋の門」(2004年)がベネチア国際映画祭の国際批評家週間に選出され、脚本を手がけた「東京タワー~オカンとボクと、時々、オトン~」(2007年、松岡錠司監督)で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞するなど、さまざまな栄誉を手にしている。テレビドラマなどの出演でお茶の間でもおなじみの才人だが、そんな「いい大人」がこういう映画を自らの主演で撮るというのは、驚きを通り越して、もうすばらしいとしか言いようがない。

 言ってみれば松尾監督お得意のとぼけた味わいのコメディーなんだけど、とにかくエロスの要素がこれでもかと詰まっている。松尾監督演じる脚本家の海馬五郎は、最愛の妻、綾子が、若いダンサーのドクタースネークに熱を上げていることを知って愕然とする。離婚を考える海馬だったが、財産分与で資産の半分の1000万円を綾子に支払わないといけないと聞かされて激怒。裏切り者の妻にそんな大金は渡さないと、すべてを使い切るための計画を練る。

 こうして海馬が取った手段というのが、もう目くるめくエロスのオンパレードなのだ。綾子がダンサーとのツーショット写真を投稿したSNSに108の「いいね」がついたことから、108人の女を抱くと宣言。湯水のようにお金を使って、次から次へと風俗に通い始めるが、どんな高級コールガールでもそんなに使い切れるものではない。やがて行きついた先が……、というあらすじだけでもとてつもなくばかばかしいが、これを映像で、しかもミュージカル仕立てで見せるのだから恐れ入る。

 中でも頂点は、後半に訪れるミュージカル稽古場での大乱交シーンだろう。1人1人とセックスしても埒が明かないと気づいた海馬は、何十人もの女といっぺんにやることにしたのだが、だだっ広い稽古場に全裸の男女が入り乱れてくんずほぐれつという光景は圧巻の一語に尽きる。

 その中心にいるのが、全裸の監督自身というのがすごい。裸の乱舞といえば、最近ではルカ・グァダニーノ監督が名作ホラーにオマージュをささげた「サスペリア」(2018年)がすさまじかったし、トム・ティクヴァ監督の「パフューム ある人殺しの物語」(2006年)のクライマックスには度肝を抜かれたものだ。大勢の男女が裸でくんずほぐれつというのは映像作家の創造性を掻き立てる素材なのかもしれないが、監督自らがその一員になるとは、いやはや驚嘆するばかりだ。

 共演者も、このくだらなさ、エロさによく付き合ったものだと感心する。妻の綾子役は伝説のアイドルだった中山美穂だし、岩井秀人、秋山菜津子といったれっきとした演劇人が、やはり体を張って熱演している。唐突すぎるミュージカルシーンもみんな大真面目で演じ切っていて、この潔さは何ともすがすがしい。

 松尾監督には前作「ジヌよさらば~かむろば村へ~」(2015年)のときにインタビューをして、映画は下手すると海外にも行くし、何十年後まで残るというのが、演劇にはない面白さだと語ってくれた。「逆にずうっと稼働させられる怖さもあるわけで、下手なものは撮りたくないですね」とも言っていたが、映画の永久性を認識している上で、ここまで徹底してくだらなさを追求するとは、松尾スズキなる異才の途方もないすごみに改めて感じ入った。(藤井克郎)

 2019年10月25日、TOHOシネマズ日比谷など全国で公開。

©2019「108~海馬五郎の復讐と冒険~」製作委員会

映画「108~海馬五郎の復讐と冒険~」から。主人公の海馬五郎を演じる松尾スズキ ©2019「108~海馬五郎の復讐と冒険~」製作委員会

映画「108~海馬五郎の復讐と冒険~」から。海馬五郎(左、松尾スズキ)は妻、綾子(中山美穂)の不貞を疑い…… ©2019「108~海馬五郎の復讐と冒険~」製作委員会