「お嬢ちゃん」(二ノ宮隆太郎監督)

 ENBUゼミナールが主催するCINEMA PROJECTといえば、若手監督が俳優のワークショップを重ねながら作品を練り上げていくという企画で、昨年大ヒットした「カメラを止めるな!」(2017年、上田慎一郎監督)をはじめ、話題作を次々と世に送り出している。その第8弾に当たる新作2本のうち、すでに柴田啓佑監督の「あいが、そいで、こい」は今年6月に公開され、好評を博したが、もう1本の「お嬢ちゃん」も、ちょっと度肝を抜かれるような刺激たっぷりの作品だった。

 主人公は、鎌倉の海岸近くにおばあちゃんと2人で暮らす21歳のみのり(萩原みのり)。小さなカフェでアルバイトをしている彼女は、男どもには喧嘩を売るわ、カフェの同僚には悪態をつくわ、おばあちゃんには素直になれないわと、ちょっととんがったキャラクターの女の子だ。ある日、誰にも嫌と言えず、いつも曖昧にほほ笑んでいる親友の理恵子に小言を言っているうちに、ふと自分自身を顧みて感情が込み上げてくる。

 この最大の見せ場を含め、二ノ宮隆太郎監督はノーカットの長回しを多用して、みのりを取り巻く人々の日常を活写する。中でも冒頭の一連のカメラワークは驚異的で、海から上がってきた男性とその娘がアイスを買いに砂浜を道路に向かうと、すれ違いに登場した若い男女がどうでもいい無駄話を延々と繰り広げ、その輪がどんどん広がっていく中、はるか向こうの道を女性が2人、急ぎ足で歩いていく。この2人がみのりと理恵子で、ここまでの一連の動き、せりふをノーカットでつないでいく撮影は、オーソン・ウェルズ監督作「黒い罠」(1958年)の伝説のオープニングに匹敵するほどの鮮やかさだ。しかも出演者は、主役の萩原みのり以外は恐らくワークショップに応募してきた人たちなのだろう。スクリーンでしょっちゅう見かける顔ではないが、緊張を強いられる長回しのショットでこんなにも自然な演技を引き出すとは、さすがは俳優としての評価も高い二ノ宮監督だけのことはある。

 驚くのは撮影技法にとどまらない。映画は決して主人公のみのりだけを追っているわけではなく、彼女とかかわりのある人たちの何気ない日常も長回しで眺めていく。みのりに多大な影響を与える人もいれば、深くかかわってくるのかなと思ったらそれっきりというパターンもある。こうして特に大きな事件など起きないまま、徐々にみのりの境遇と性格が明らかになって、最後の見せ場へと進んでいく。

 で、その見せ場なんだけど、これを見るためにそれまでのすべての場面に意味があったと言っていいほどの力強さがある。詳しくは書かないが、どんなに粋がっても調和を重んじるこの社会にがんじがらめになって生きざるをえないジレンマというか、あきらめというか、みのりの中に押し寄せてきたそんな複雑な感情がじんわりと伝わってきて、画面に釘づけになった。これをやはりノーカットの長回しで描き切った二ノ宮監督の胆力、それに見事に応えた萩原の感性には、ただただ唸るしかない。(藤井克郎)

 2019年9月28日、東京・新宿のK’s cinemaで公開。

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映画「お嬢ちゃん」から。主役のみのりを演じる萩原みのり ©ENBUゼミナール

映画「お嬢ちゃん」から。親友の理恵子(右、土手理恵子)にイライラをぶつけるみのり(萩原みのり)は… ©ENBUゼミナール