「鉄道運転士の花束」(ミロシュ・ラドヴィッチ監督)

 旧ユーゴスラビアの映画といえば、内戦の歴史を風刺した「アンダーグラウンド」(1995年)などエミール・クストリッツァ監督の作品が知られるが、内戦も収束した今、もっと多様な新作が生まれているはず。そんな1本が、1955年生まれのセルビア人、ミロシュ・ラドヴィッチ監督が2016年に手がけたこのセルビア・クロアチア合作映画だ。もう60代ながら、この監督さんの名前は寡聞にして知らなかったし、かつて泥沼の戦闘を繰り広げたセルビアとクロアチアが共同で製作しているというのも意外な気がする。

 映画自体もちょっと意表を突くブラックコメディーで、中でも最大のブラックジョークは、鉄道運転士たちが事故でひき殺した人数を自慢し合うということだろう。主人公はベテラン運転士のイリヤで、これまでに鉄道事故で28人を死なせたという記録を持つ。定年を間近に控え、男手一つで育て上げた養子のシーマが跡を継ぐことになってほっとするが、息子はいつ事故を起こして人を殺してしまうかという恐怖におののいていた。一瞬で終わると父親に励まされるシーマだが、来る日も来る日も事故は起きず、シーマの緊張感はこれ以上ないほどに高まっていく。

 と筋だけを追うと、何ともシュールな印象だが、武骨なイリヤと線の細いシーマという好対照のキャラクターといい、客車を改造した2人の風変わりな住まいといい、どことなくユーモラスでほんわかした雰囲気が作品全体を温かく包み込む。

 一方で、いつ人を殺してしまうかもしれないという恐怖は、過酷な内戦を体験した旧ユーゴスラビアのお国柄と無関係ではないかもしれない。戦争で感覚が麻痺してしまい、人を殺しても何とも思わなくなっていったことへの痛烈な皮肉とも受け取れるが、それをとぼけた味わいで笑いに昇華させているところに、ラドヴィッチ監督の創意がにじむ。

 さらに題材が鉄道というのも意味深い。映画の中に、トルコやルーマニアから来た列車がドイツに向かうといったせりふが出てくるが、線路は決してセルビア国内にとどまってはおらず、ヨーロッパ全土、さらには世界各地につながっている。国際社会に生きるわれわれが、些細なことで言い争って何になる。そんな気概も画面の端々から感じられる。

 まさにセルビア人によるセルビアを見つめた映画とはいえ、旧ユーゴスラビアの歴史や現状を知らなければ理解できないような偏った映画では決してない。イリヤ役を演じたラザル・リストフスキーのつっけんどんな優しさは高倉健にも通じる魅力があり、どこかほっとした気分にさせられる。映画も鉄道と同様、世界中とつながっているんだなとの思いを新たにした。(藤井克郎)

 2019年8月17日、東京・新宿シネマカリテなど順次公開。

©ZILLOION FILM ©INTERFILM

セルビア・クロアチア合作映画「鉄道運転士の花束」から ©ZILLOION FILM ©INTERFILM

セルビア・クロアチア合作映画「鉄道運転士の花束」から ©ZILLOION FILM ©INTERFILM