「感染家族」(イ・ミンジェ監督)

“ゾンビ映画の父”と言われたジョージ・A・ロメロ監督がこの世を去ったのは、2年前の2017年7月16日だった。その翌月、新感覚の韓国製ゾンビ映画「新感染 ファイナル・エクスプレス」(2016年)のプロモーションで来日したヨン・サンホ監督は、東京・飯田橋で開かれたトークイベントでロメロ監督の功績に触れ、著作権を開放しておいたことの恩恵を強調。「しかもロメロ監督は、ゾンビの起源を未知のものにしていた。後に作る者たちが想像力を発揮できる余地を残しておいてくれたのです」と感謝を口にして、偉大な巨匠の死を悼んでいた。

 同じ韓国で作られたこの「感染家族」も、制約のないゾンビ映画の設定を最大限に生かした快作と言えるだろう。何しろ冒頭でゾンビが発生したと振っておきながら、映画の中ではずっと1体しか登場せず、家族内のちまちました話が延々と繰り広げられるのだ。このまま単なるホームドラマで終わってしまったら、それはそれでめちゃめちゃ画期的なゾンビ映画だったかもしれない。

 物語の舞台は、片田舎の寂れたガソリンスタンドで暮らすパク一家。ハワイ旅行を夢見るお父さんに生活力のない長男、無口な身重のその妻、そして無邪気な末娘の4人で、車を無理やり修理しては金を巻き上げて何とか生計を立てていた。そこへ都会から会社を首になった次男が帰ってくるのと時を同じくして、若い男のゾンビが出現。不幸にもお父さんがかまれてしまうが、ゾンビになるどころか急に若返ったお父さんを見てゾンビで商売になると考えた一家は、ゾンビを「チョンビ」と名付けてペットのように飼い始める。

 とまあ、いくら寛大なロメロ監督でもぎょっとしそうな展開だが、とにかく序盤から笑いの要素が満載で、ゾンビ映画=ホラーという思い込みは大いに裏切られる。かと言って単なるドタバタというわけではなく、これがデビュー作というイ・ミンジェ監督の緻密に計算された人物設定が笑いに拍車をかける。臆病な兄に山っ気のある弟、裏がありそうな兄嫁に大胆で奔放な妹、と家族のキャラクターがはっきりしていて、そこに未知のチョンビが入り込むことで、それぞれがどんなリアクションを取るのか。その興味が作品をぎゅっと引き締まったものにしている。

 さらにお父さんの老いぼれた友人たちの情けなさも笑いを誘う。ゾンビにかまれるのは怖いけど、できたら若返ってカッコよくなりたい。そんな庶民のささやかな欲望がオーバーに描かれ、高齢化社会への風刺もピリッと効いている。

 やがてお定まりの流れになっていくのだが、それまでのチープ感が嘘のように、ゾンビ映画としてアクションもセットも本格的で、手抜きは一切ない。決してお遊びで作っているわけではなく、ゾンビをモチーフにしたコメディーという分野に真剣に挑戦しようという気構えが垣間見えて、ちょっとした感動を覚える。昨年ヒットした日本製のゾンビコメディー「カメラを止めるな!」は低予算を逆手に取った貧乏仕立てが功を奏したが、こちらは製作費を惜しげもなく注ぎ込んで徹底的に笑いを追求する。改めて韓国映画の底力を見せつけられた気がした。(藤井克郎)

 2019年8月16日から東京・シネマート新宿、大阪・シネマート心斎橋など全国順次公開。

©2019 Megabox JoongAng Plus M&Cinezoo,Oscar 10studio,all rights reserved.

韓国映画「感染家族」から ©2019 Megabox JoongAng Plus M&Cinezoo,Oscar 10studio,all rights reserved.

韓国映画「感染家族」から ©2019 Megabox JoongAng Plus M&Cinezoo,Oscar 10studio,all rights reserved.