「メランコリック」(田中征爾監督)

 映画の試写に行くと、ときどきテレビでよく見かける人と出くわすことがある。中には上映ぎりぎりに飛び込んできて、エンドクレジットの途中で抜け出すようなカッコつけもいるが、この「メランコリック」を見にいったときは、前の席に、むむっ、川平慈英がいたんです。マスコミ試写というところ、結構ふざけたコメディーでもあんまり笑い声が起きなかったりするのだが、この川平さん、ところどころ豪快に「あははは」とやってくれて、こちらも思い切り笑うことができた。やっぱりおかしい場面では、大声で笑い飛ばさないとね。

 で、どんな映画かというと、ストーリーをたどるだけではこのおかしさは伝わらないかもしれない。主人公は就職もせずにぷらぷらしている東大出身の和彦、30歳。高校で同級生だった百合から近所の銭湯でのアルバイトを勧められ、働くことになるのだが、この銭湯では営業が終わった深夜に、あるとんでもないことが行われていた。

 そのとんでもないことを知ってしまったために、和彦ものっぴきならない事態に巻き込まれ……、という展開は、あまり詳しくは語らない方がいいだろう。銭湯というほんわかした空間とまるでかけ離れた凶悪な行為とのギャップの面白さに加え、和彦をはじめ、登場人物が皆どことなく脱力系のキャラクターというのも、笑いに拍車をかけている。和彦の両親は、東大を出ていながら定職に就かない息子に対してまるで興味がなさそうだし、銭湯の主人も同僚もどこかすっとぼけた味わいがある。

何より和彦自身、別に劣等感にさいなまれているわけでもなければ、世を捨てたような虚無感を漂わせてもいない。どこか飄々と、何事にもこだわりがなさそうに見えて、銭湯の同僚の松本くんに差をつけられるのは何となく不満に思っている。自分に接近してきた百合ちゃんに興味があるようには思えないのに、いざ彼女に危険が及ぶかもしれないとなると急に未練がましくなる。

 そんなトホホなやりとりを繰り返しながら、ドラマはどうやらとんでもない悲劇に向かって突き進んでいる、というのが、この映画のとりわけ斬新なところだろう。それでいて、見終わったときには非常にすがすがしい気分になっている。だてに昨年の東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門で監督賞を取ったわけではないな、と確認できた。

 この映画は、和彦役を演じる俳優でプロデューサーも兼ねる皆川暢二と、松本役の磯崎義知、それに田中征爾監督の3人で始めた映画製作チーム「One Goose」の初めての作品で、田中監督にとっては初の長編になる。ほかの出演者も無名な人ばかりで、低予算ゆえの粗さは随所に見られるものの、文句なしに面白いと断言できる。またまた新感覚の若い才能の登場に、何ともうれしくなった。(藤井克郎)

 2019年8月3日、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺、イオンシネマ港北ニュータウンなど全国で順次公開。

映画「メランコリック」から。和彦(右、皆川暢二)は、松本(磯崎義知)と銭湯でアルバイトを始めるが……

映画「メランコリック」から。和彦(左、皆川暢二)は百合(吉田芽吹)に勧められて銭湯のアルバイトを始める