「トム・オブ・フィンランド」(ドメ・カルコスキ監督)

 北欧フィンランドと言えば、平等意識が極めて高く、人権が確立されている国という印象が強い。だがそれも近年のことであり、この国も半世紀ほど前までは杓子定規なものの見方に凝り固まっていたということが、この映画を見て改めて知った。

 主人公はトウコ・ラークソネンという実在の人物で、1991年に71歳で死去している。彼がひそかに描いたマッチョな男性のイラストは、トム・オブ・フィンランドの作家名で世界的に人気を呼び、その作品はゲイアートの先駆けとして、日本でも多くの人が目にしているのではないか。

 映画は、トウコが出征した第二次大戦の戦場で同性愛に目覚め、帰還後、自らの欲望を昇華させる形でイラストに没頭するという大筋をベースに、同性愛が禁じられていたフィンランド社会の恐怖と彼が求めた愛の美しさを対比させる形で描いている。中でもキプロス生まれ、フィンランド育ちのドメ・カルコスキ監督の大胆な時間の跳躍が刺激的。戦場での禁断の行為と、帰還後の抑えきれぬ愛欲とを同等の緊張感でとらえ、目まぐるしいカット割りなどでアーティスティックに彩っていく。

 一方で、トウコを演じるペッカ・ストラングに対しては決して過剰な演出はせず、実に淡々とイラストにのめりこむゲイアーティストを演じさせる。ごく普通に恋人とは仲がよく、ごく普通に妹を気づかい、とゲイの描写には全く気負ったところがない。

 一方で、ゲイを法律で抑えつけ、警察が強権で取り締まる国家権力については、思い切り嫌悪の対象として表現する。フィンランドが、少し前までゲイの絵を描くだけで逮捕される国だったとは意外だった。その後進性と対照的に、1978年に彼が招かれたアメリカでは熱狂的に歓迎されるが、そのアメリカも、エイズが流行するとゲイへの風当たりがきつくなる。それでもトウコはあくまでもマッチョな絵を描き続け、「コンドームを使おう」と添え書きすることを忘れない。声高に権利を主張するわけではないが、決してぶれないトウコの生き方に、カルコスキ監督が深い敬意を払っているということがわかり、さわやかさすら感じる。

 ところでこの社会性、芸術性あふれる作品が、日本では映倫によってR18+(18歳未満は観覧禁止)に区分された。配給会社によると、背後に映っているポスターなど2カ所の修正を求められたが、拒否したためにR18+に指定されたという。未成年にとって刺激の強すぎる表現があるとは思えない。表現の自由度では今や世界一といわれるフィンランドのように、芸術の多様性が理解される日が果たして日本にも来るのだろうか。(藤井克郎)

 2019年8月2日からヒューマントラストシネマ渋谷など順次公開。

©Helsinki-filmi Oy, 2017

フィンランド・スウェーデン・デンマーク・ドイツ合作映画「トム・オブ・フィンランド」から ©Helsinki-filmi Oy, 2017

フィンランド・スウェーデン・デンマーク・ドイツ合作映画「トム・オブ・フィンランド」から ©Helsinki-filmi Oy, 2017