「北の果ての小さな村で」(サミュエル・コラルデ監督)

 前にここで取り上げた「ハッパGoGo 大統領極秘指令」をはじめ、このところドキュメンタリーともフィクションともつかぬ微妙な作品に接する機会が多い。北極圏に位置する世界最大の島、グリーンランドを舞台にしたこの「北の果ての小さな村で」も、何とも不思議な感覚にとらわれる虚実皮膜のユニークな映画に仕上がっていた。

 デンマーク領の極寒の島、グリーンランドの小さな村に、デンマーク人の新人教師、アンダース(アンダース・ヴィーデゴー)が赴任してくる。先住民族のイヌイットが暮らすこの村では、両親は長期間、犬ぞりで狩りに出ている家庭が多く、子どもたちは祖父母と留守宅を守っている。学校にも出てこない子どもたちがいる中、デンマークの習慣と言葉を教えようと躍起になるアンダースだが、村人の対応は冷たかった。

 主人公のアンダースをはじめ、村人たちも全員が本人役で登場。伝統のままに生きる暮らしぶりは彼らの実態そのもので、それに戸惑いを隠せないアンダースもこの村に赴任してきたばかりの新人教師という、まさにこの村で営まれていることそのものがこの映画では展開されている。

 と言うと、この村の現状を記録したドキュメンタリーかと思えば、それがちょっと違うから面白い。アンダースと村人や子どもたちとの対立と理解は非常によく練られたドラマ仕立てだし、カメラは両者の戸惑いと葛藤を、ときにはクロースアップで、ときにはロングショットで、実に多彩に絡めとる。犬ぞりが大雪原を駆け抜ける姿をかなりの上空から収めた空撮シーンはほれぼれするほど美しいし、世界でもここにしかない雄大な自然が、驚くべき鮮やかな映像で迫ってくる。グリーンランドの魅力のとりこになり、2年をかけて島中を探索、実際の出来事を再現して物語を構築し、自ら脚本、撮影も手がけたフランス人のサミュエル・コラルデ監督の執念が実った驚異の作品と言えるだろう。

 それにしても、ここに収められている素材の豊かさには目を見張る。生まれたばかりの子犬にホッキョクグマの親子、豪快に潮を吹くクジラたちなど、さまざまな生き物の一瞬をとらえた映像は貴重な資料ともいえるし、何よりもどこまでも続く白い雪原の風景などは絶対に残すべき地球の姿だろう。さらに村の子どもたちのやかましすぎる態度、それをたしなめるアンダースの狼狽ぶりなどは決して演技ではない瞬間の感情だし、そんな自然な素材を集めて独自の創造性まで盛り込むなんて、うーん、世界にはまだまだすごい映画作家がいるんだなということを思い知った。(藤井克郎)

 2019年7月27日、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺など全国順次公開。

©2018 Geko Films and France 3 Cinema

映画「北の果ての小さな村で」から。グリーンランドの小さな村の小学校に赴任してきたアンダース(左、アンダース・ヴィーデゴー)は… ©2018 Geko Films and France 3 Cinema

映画「北の果ての小さな村で」から。映画の舞台、グリーンランドのチニツキラークは、人口80人の本当に小さな村だ ©2018 Geko Films and France 3 Cinema