「アンダー・ユア・ベッド」(安里麻里監督)

 主役が優男から癖のある人物まで幅広くこなす個性派俳優の高良健吾で、メガホンを取ったのが「バイロケーション」(2014年)や「劇場版 零~ゼロ~」(同年)といった一筋縄ではいかないホラーを手がけてきた女性監督の安里麻里、それでいてレイティングが18歳未満はお断りの「R18+」というから、これはもう興味津々、ぜひとも見ておかねばなるまい、と試写室に向かった。試写には、ヒロイン役を演じている西川可奈子も駆けつけ、上映前に「熱い現場だった」と感想を語っていたが、確かにスタッフ、キャスト一人一人の熱気を強烈に感じさせるとてつもない映画に仕上がっていた。

 原作は大石圭の同名小説。高良演じる主人公の三井は、ほとんどいるのかいないのかわからないほど影の薄い存在で、子どものころから誰からも名前を覚えられたことがなかった。たった一度、11年前に大学の教室で「三井くん」と呼ばれたことがあったが、人生で唯一の幸せを感じたあの一瞬を再び味わいたいと、名前を呼んでくれた千尋(西川)を探し出す。彼女はすでに人妻となって、平凡な主婦に収まっていたが、三井は彼女の家が見えるアパートに引っ越して、その生活のすべてを覗き見ようとする。

 初めは遠くから見つめるだけだったのが、徐々にエスカレートしていって、最後は千尋のベッドの下に潜り込むに至るまでのサスペンス性が見事。ハラハラドキドキさせられると同時に、千尋の家庭で繰り広げられているとんでもない事実がだんだんと明るみになって、最初は単に薄気味悪いだけだった主人公が、薄気味悪さはそのままでいつしかヒーローになっていく。その畳みかけるような追い込み感と、三井の視線という限定された情報だけでうかがい知れる映像魔術が相まって、否が応でも気分が高揚していく。中でも千尋が夫(安部賢一)に風呂場まで引きずられていく場面は、夫婦2人の芝居だけでも高いテンションなのに、陰に隠れている三井が嗚咽する表情まで絡める。そうそうは再現できない緊迫感あふれる映像で、スタッフ、キャスト一丸となった情熱がひしひしと伝わる。

 と同時に感心したのは、それぞれの人物描写の巧みさだ。ヒーロー的存在になるとは言え、三井は最後まで薄気味悪いし、それに輪をかけて薄気味悪い水島という男(三河悠冴
)が三井の経営する熱帯魚店に現れる。誰がまともで、誰がまともではないのか。そんな人間性の本質にまで踏み込んで、一人一人の個性を深く掘り下げる。これに、11年前にいったい何が起きたのか、という回想をちらっちらっと織り込んで、最後まで謎解きの妙味を残しつつ物語を構築していくなんて、さすがの一言だ。

 恐らくこれでR18+になったかと思われる激しいバイオレンスショットも見もので、女性監督にしてよくぞこれだけの演技を役者に要求したもんだと驚嘆する。作家性も前面に出しながら、エンターテインメントとしてさわやかにラストを迎えさせるとは、安里監督の匠の技に徹頭徹尾、酔いしれた。(藤井克郎)

 2019年7月19日、東京・テアトル新宿で公開。

©2019 映画「アンダー・ユア・ベッド」製作委員会

映画「アンダー・ユア・ベッド」から。千尋の家に忍び込んだ三井(高良健吾)は、ベッドの下に身を隠すが… ©2019 映画「アンダー・ユア・ベッド」製作委員会

映画「アンダー・ユア・ベッド」から。一度だけ名前を呼ばれた千尋(下、西川可奈子)のことが忘れられない三井(高良健吾)は… ©2019 映画「アンダー・ユア・ベッド」製作委員会