「ハッパGoGo 大統領極秘指令」(デニー・ブレックナー、アルフォンソ・ゲレロ、マルコス・ヘッチ監督)

 最近、ドキュメンタリーなのかフィクションなのか判別のつかない刺激的な作品を目にする機会が多い。東京・テアトル新宿で開催中の「田辺・弁慶映画祭セレクション2019」の初日に初披露された石井達也監督の「万歳!ここは愛の道」もそんな1本で、とにかく「すごい」としか言いようのない虚実混交の壮絶な作品になっていた。

 何しろ被写体が監督の恋人で、彼女が突然、2年分の記憶を失うというところから始まるのだが、この驚愕の出来事は実際に彼女の身に起こったことらしい。苦しみもがく彼女の表情は決して演技ではないし、その重みを受け止めきれない監督が泣きじゃくるのも真実だろう。だが映画は決して2人のやり取りだけを切り取っているわけではない、というのがこの作品の肝で、まだ20歳そこそこの石井監督の鋭い感性と高い志に大いに感服した。

 この作品は7月15日から18日まで再び「田辺・弁慶映画祭セレクション」で上映されるから、ぜひその目で確かめてほしい。ちなみに2年間の記憶をなくした恋人は映画監督の福田芽衣で、彼女が監督した「チョンティチャ」もセレクションで上映されたが、これまたみずみずしい輝きに満ちたとても味のある作品だった。

 南米ウルグアイ発の映画「ハッパGoGo 大統領極秘指令」も、虚実皮膜において負けてはいない。ウルグアイは2013年、麻薬密売業者の排除を目指して、世界で初めて国家としてマリファナを合法化。世界一貧しい大統領として知られる当時のホセ・ムヒカ大統領は、国がマリファナの栽培と販売を統括し、薬局で1㌘1㌦の安価で売ると発表した。

 薬局を経営するアルフレドは、さっそくお菓子のブラウニーにマリファナを混ぜて売り出し、人気を呼ぶが、密売業者から入手していたことがばれて逮捕される。国内での栽培がなかなか進まないジレンマに悩んでいたムヒカ大統領は、このアルフレドに釈放と引き換えにある極秘指令を出すことを思いつく。それはアメリカでマリファナの供給ルートを探し出すことだった。

 かくしてアルフレドは母親のタルマとともにアメリカに渡り、マリファナが合法とされているコロラド州で全米最大のマリファナ解放イベントに行ったりするのだが、これなんかどう見ても実際の集会に飛び入り参加しているとしか思えない。彼らがアメリカ各地で出会うさまざまな団体の代表らも実在の本人たちだろうし、何よりムヒカ大統領として登場する人物はムヒカ氏自身なのだ。

 だが主人公のアルフレドは、3人の監督の1人、デニー・ブレックナーが演じていて、コロラド州でのマリファナ集会でウルグアイ代表として大観衆を前に堂々と演説をするタルマは、ブレックナー監督の実の母親だという。さらに途中からウルグアイ警察の元麻薬捜査官なる人物が合流して、アルフレドの目を盗んでタルマとSMプレイに興じるとなると、いやはや、もうわけが分からない。

 とはいうものの、ウルグアイが国としてマリファナを合法化したのは事実だし、国内での栽培にものすごく苦労しているというのも実際に報道されていることだ。それも国際的な密売組織を排除するという崇高な目的のためであり、画面からは、思い切った政策を実行した自国を誇りに思うブレックナーら若い3監督の興奮が、強烈な諧謔性と生き生きとした躍動感を伴って漂ってくる。

 アメリカでの体当たり撮影に嘘はなく、カメラには彼らの情熱のほとばしりが刻み込まれている。それこそが映画が持っている伝える力であり、それはフィクションであろうがドキュメンタリーであろうが違いはない。そんな原初的な真実に改めて気づかせてくれた作品がこうして作られたということもまた、ウルグアイが世界に誇るべき事実かもしれない。(藤井克郎)

 2019年7月13日から東京・新宿K’s cinemaで公開。

©️Loro films

映画「ハッパGoGo 大統領極秘指令」から。アメリカ潜入の極秘指令を受けたアルフレド(左、デニー・ブレックナー)は、母親(タルマ・フリードレル)とともにマリファナ供給ルートを探るが… ©️Loro films

映画「ハッパGoGo 大統領極秘指令」から。ウルグアイ国内でのマリファナ栽培が思うように進まないことから、ムヒカ大統領(左、ペペ・ムヒカ)は一計を案じる ©️Loro films