第352夜「ドラマなふたり」クリストファー・ボルグリ監督

 チラシを読むと、全世界で興行収入1億ドルを超える大ヒットを記録したラブストーリーとある。でも恐らく一筋縄ではいかない作品ということは、監督、脚本、編集を手がけたのがクリストファー・ボルグリで、プロデューサーにアリ・アスターが名を連ねていることからも想像できる。何しろ北欧ノルウェーの出身、ボルグリ監督の前作「ドリーム・シナリオ」(2023年)は、ニコラス・ケイジの主人公が何百万人もの夢の中に現れるという、いい意味でトチ狂ったような映画だったし、アスターは監督としても「ミッドサマー」(2019年)、「ボーはおそれている」(2023年)、「エディントンへようこそ」(2025年)と癖のある怪作を連発している。

 男女が偶然に出会って引かれ合い、結婚することになって、という大筋は確かにラブストーリーの王道だが、なるほど冒頭から引っかかりが全開だ。ボストンのとあるおしゃれなカフェ。1人で本を読んでいるエマ(ゼンデイヤ)を一目見て興味を抱いたチャーリー(ロバート・パティンソン)は、彼女が席を外した隙に本のタイトルを盗み見る。そして戻ってきた彼女に「その本、面白いよね」と声をかける。

 でもエマは、そんなチャーリーのナンパに応じない。実はエマは右の耳が難聴で、右側から話しかけたチャーリーの言葉が聞こえなかった。「もう一度やって」とリクエストするエマに応えて、チャーリーはまたも見え透いた嘘をつく、という導入は、ベタと言っちゃベタなんだけど、何ともおふざけが過ぎるというか、違和感がありまくりで、かえってすがすがしいくらいだ。その後、2人は親密になって結婚に突き進んでいくのだが、その過程がめちゃめちゃ速足で流れていくから、胸キュンするいとまも与えない。

 と、結婚式まで後7日と迫った夜に、またまた引っかかりが、それもこれ以上ないという最大のものが現出する。チャーリーの親友で式の付添人を務めるマイク(ママドゥ・アティエ)とレイチェル(アラナ・ハイム)夫婦と一緒に、披露宴のメニューを決めるために試食に出かけたときのこと。ワインに酔った4人はゲーム感覚で、これまでの人生でやらかした最悪の行為を告白し合うことになる。その内容については見てのお楽しみといったところだが、これを機に4人の、なかんずくエマとチャーリー2人の関係がぎくしゃくしてくるというのがこの映画の肝だろう。

 ボルグリ監督はこの後、2人の過去、特にエマがあまりイケていなかった中学、高校時代の回想場面を合間合間に織り込みながら、ラブラブだった2人がどんどんすれ違っていくさまを激烈な映像でつづっていく。特に疑心暗鬼に陥ったチャーリーが暴走していく過程はなかなかの見ものではあるが、一方で、こんなにも劇的に恋心が冷めてしまうその原因については残念ながらピンと来なかったというのが正直なところだ。

 これは恐らく、アメリカ人だったら容易に共鳴できる反応なのではないかなと推察される。映画の設定はかなりファンタジーを装ってはいるものの、現代アメリカの社会情勢、とりわけ市民生活を脅かす病巣とも言えるものを如実に反映していて、2人だけの世界に浮かれている能天気なカップルも無縁ではいられない。日本だったら普通にいじめっ子だったというだけで周りは引いてしまうのではないかと思うが、エマの告白は桁違いで、特にレイチェルの態度は尋常ならざるものがある。

 それをアメリカと比べたら段違いで治安がいいとされるノルウェー出身のボルグリ監督が、自らのオリジナル脚本で具現化したというのもまた興味深い。基本的には愛の本質について深くえぐり出している作品であり、表面上の恐ろしさに気づかないまま大口を開けて笑って鑑賞できる方が幸せなのかもしれないね。

 主役を演じる2人は、エマ役のゼンデイヤが「スパイダーマン:ホームカミング」(2017年、ジョン・ワッツ監督)など最近の「スパイダーマン」シリーズで名を売れば、チャーリーを演じたロバート・パティンソンは「トワイライト 初恋」(2008年、キャサリン・ハードウィック監督)をはじめとした一連の「トワイライト」シリーズで注目を集めた。いわばハリウッドの新世代スターとも言えるが、そんな売れっ子2人がこんなにも嫌な感じを臆することなく表現しているのも見ものだ。2人は9月公開の超話題作「オデュッセイア」(2026年、クリストファー・ノーラン監督)にも出演しているが、また全然違う存在感を発揮していて、見比べるのも一興か。(藤井克郎)

 2026年8月21日(金)、TOHOシネマズ日比谷など全国で公開。

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クリストファー・ボルグリ監督のアメリカ映画「ドラマなふたり」から。チャーリー(左、ロバート・パティンソン)とエマ(ゼンデイヤ)は結ばれることになるが…… © 2026 Dramatic Movie Rights LLC. All Rights Reserved.

クリストファー・ボルグリ監督のアメリカ映画「ドラマなふたり」から。エマ(左、ゼンデイヤ)とチャーリー(ロバート・パティンソン)は披露宴の試食の席で…… © 2026 Dramatic Movie Rights LLC. All Rights Reserved.