第150夜「メイド・イン・バングラデシュ」ルバイヤット・ホセイン監督

 ジェンダーギャップ指数というものがある。世界経済フォーラムが政治、経済、教育、健康の4つの分野で男女格差を数値化しているもので、2021年は156カ国を対象に調査し、日本は120位とかなり低くランク付けされているのはご存じの通りだ。1位から3位はアイスランド、フィンランド、ノルウェーと北欧の国々が占めているほか、4位のニュージーランド、5位のスウェーデンに続いて、ナミビアが6位、ルワンダが7位とアフリカ勢が意外にも上位に食い込んでいる。

 アジアで言うと、17位のフィリピンが最上位で、ラオス36位、シンガポール54位、東ティモール64位となっており、続く65位にバングラデシュが入っている。日本と比べるとまだましな方という程度だが、そのバングラデシュを舞台に、女性が直面する厳しい現実を娯楽の要素を詰め込んで紡ぎ上げた映画が、この「メイド・イン・バングラデシュ」だ。

 主人公は、首都ダッカの縫製工場で働く23歳のシム(リキタ・ナンディニ・シム)。狭い部屋に大勢の女性従業員と一緒に押し込められ、日夜ミシン掛け作業に追いまくられている。時には火災も起きるなど労働環境は劣悪な上に、徹夜で働いても残業代は支払われない。それでも夫が失業中のシムは、工場を辞めるわけにはいかないのだ。

 そんなある日、シムは工場前で労働者権利団体の女性から声をかけられる。何かあったら訪ねてほしいという言葉を思い出し、後日、オフィスを訪ねて工場の実態について不満をぶちまけると、労働組合を作ることを勧められる。組合結成には多くの従業員の署名が必要なのだが、さてシムは同僚の署名を集めて組合を作ることができるのか。

 といった思い切り社会派の物語が、すかっと小気味のよいシムの言動と、でもその思いがなかなか遂げられないじれったさとが巧みに絡み合って、テンポよく展開する。同僚の賛同を得るだけでも大変なのに、シムたちの動きを察知した上司は何とかして組合結成を阻止しようと露骨に妨害工作を働く。家庭ではようやく仕事を得た夫がシムの行動に大激怒し、頼みの綱の労務省の役人も経営者寄りと、女性の末端労働者の権利を守ってくれる人なんて誰もいない。そんな絶望的な状況でも決して諦めないシムの孤軍奮闘ぶりが、路地裏を元気に走り回る子どもたちや、大通りをけたたましく行き交う車の列など、ダッカの街の喧騒を背景に、生き生きと描写される。

 手がけたのは、1981年ダッカ生まれのルバイヤット・ホセイン監督で、映画製作だけでなく作家や研究者としても活動している女性だ。研究のテーマは女性学に南アジア文化と幅広く、この作品のために3年を費やして工場労働の実態をリサーチ。そこで出会った組合のリーダーを務めている女性をモデルに、この物語を作り上げたらしい。映画の中でもせりふで指摘しているが、組合を作る権利は誰にでも保障されているはずなのに、実際にはこんなとんでもない工場が存在し、しかも国の役所も全く頼りにならない。これがこの国の姿なんですよ、というホセイン監督の心の底からの怒りが、ひしひしと伝わってくる。

 それにしても、と情けなく思うのは、映画に出てくる男どもが誰もかれもどうしようもない連中ばかりで、これもまた真の姿なのだろう。ある女性従業員と不倫関係にある管理職は、上司にばれると女性が言い寄ってきたからだと相手のせいにして、自分だけ保身に走る。最悪なのがシムの夫で、無職のときはあんなにシムに頼り切って平身低頭だったのに、やっと仕事に就いたと思ったら威張り腐って暴力まで振るう始末。わが身はこうなってはいまいか、男としてちょっと身構えた。

 日本はここまで男尊女卑じゃないだろうと思いたいが、でもジェンダーギャップ指数だと、完全平等が1のところ、バングラデシュの0.719に対して日本は0.656だしなあ。決して他人事と思って見てはいけない映画のような気がした。(藤井克郎)

 2022年4月16日(土)から岩波ホールなど全国で順次公開。

© 2019 – LES FILMS DE L’APRES MIDI – KHONA TALKIES– BEOFILM – MIDAS FILMES

フランス、バングラデシュ、デンマーク、ポルトガル合作映画「メイド・イン・バングラデシュ」から。シム(中央、リキタ・ナンディニ・シム)は工場労働者の権利を主張するが…… © 2019 – LES FILMS DE L’APRES MIDI – KHONA TALKIES– BEOFILM – MIDAS FILMES

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