第293夜「JUNK WORLD」堀貴秀監督
デジタルカメラの進化でかつてのフィルムほどではないにせよ、一コマ一コマ撮影して映像化するストップモーションアニメーションの制作は気の遠くなるような作業だ。最新のコンピューター技術を駆使すれば同じような質感を生み出すことも可能かもしれないが、それでも数多くのクリエイターが手間暇かけてコマ撮りに執着するのは、この手法でなければ表現できない何かがあるからなのだろう。
堀貴秀監督がたった一人で7年間を費やし、長編映画に仕立てた「JUNK HEAD」を2021年に劇場で見たときは、その完成度の高さと独特のダークな世界観に度肝を抜かれたものだった。その続編が、今度は3年の制作期間を経て完成させた「JUNK WORLD」で、ストップモーションアニメーションのファンとしては、またまた語りたくて仕方がないほどの魅力がぎっしりと詰まった驚くべき作品に仕上がっていた。
時代設定は、前作をさかのぼること1042年前の2343年。人類は地下を開発するため、人間に似せた人工生命体のマリガンを創造するが、自我に目覚めた彼らの反乱で人類との間に戦いが勃発し、地下は地球規模でマリガンが支配する世界になっていた。停戦協定が結ばれてから280年後、そんな地下世界に異変が生じ、女性隊長のトリス率いる人間チームと、ダンテをリーダーとするマリガンチームが共同で調査することになる。協力して地下都市のカープバールを目指すが、マリガンの過激なカルト教団「ギュラ教」の急襲を受けて……。
というストーリーはプレス資料に載っているもので、実際の映画ではほとんど何の説明もなく奇妙な造形の人間やマリガンたちが探検と戦闘を繰り広げる。とにかくSFの空想世界を舞台に、手作りの立体的な造形物が次々と変形していくさまが目くるめく展開されるというだけでわくわくさせられるし、その動きが本当に一コマ一コマ撮影していったのかと思うくらい滑らかで迫力に満ちている。でも滑らかとは言ってもどこかコマとコマの間の微妙な余韻が感じられて、それが何とも温かみを感じさせるんだよね。ストップモーションアニメーションの醍醐味は、恐らくそこにあるんじゃないかな。
一方で、物語の構築についてもかなり冒険的な試みがなされている。トリス隊長の護衛役としてロビンというロボットがチームに帯同しているのだが、このロビンが不死身の大活躍を見せるかと思えば、最後はバリアみたいなところに入っていって驚きの変態を遂げる。その一連の流れを、視点と様相を変えて後2回、繰り返す。ドイツ映画の「ラン・ローラ・ラン」(1998年、トム・ティクヴァ監督)に見られる手法だが、登場するキャラクターもカメラポジションもそれぞれ微妙に異なるから、同じ場面を3度、やはり一コマ一コマ撮影し直しているということになる。あらかじめ頭の中で明確なイメージを構築していないとできない芸当だし、このリフレインを全く矛盾なく織り上げるのには、相当に緻密な計算と根気強さが必要なことは確かだ。3度目が着地したときは、思わず「すごい」と、心の中で拍手喝采を送ったほどだ。
前作の「JUNK HEAD」を見ていなくても十分に楽しめるが、そのつながりに出くわしたときの感動もまた格別で、未見の人にはぜひ予習をお勧めする。シリーズは「JUNK HEAD」の55年後、今作の「JUNK WORLD」からだと1097年後の3440年を舞台にした最終章も予定しているというから、まだまだお楽しみは続きそうだ。(藤井克郎)
2025年6月13日(金)、全国公開。
©YAMIKEN

堀貴秀監督のストップモーションアニメーション映画「JUNK WORLD」から ©YAMIKEN

堀貴秀監督のストップモーションアニメーション映画「JUNK WORLD」から ©YAMIKEN