第335夜「プラダを着た悪魔2」デヴィッド・フランケル監督
何せ20年を隔てての続編である。ファッション雑誌の鬼編集長に小間使いのようにこき使われる新人編集者の奮闘物語は前作「プラダを着た悪魔」(2006年)で完結していたわけで、その20年後をさてどう描くのか。確かに活字メディアを取り巻く環境は激変しているし、どの業界でも栄枯盛衰の人間模様はドラマチックなものだ。すでに20年前に押しも押されもせぬトップ女優だったメリル・ストリープと、まだぽっと出の駆け出しだったアン・ハサウェイの時の移ろいが目撃できることにも興味がある。日米同時公開とあってか、ぎりぎりまでマスコミ試写を回さなかったこともあり、期待に胸を高鳴らせてディズニーの試写室に足を運んだ。
果たせるかな、横長ワイドなシネスコサイズの画面いっぱいに次から次へと華麗なファッションが繰り出される展開は見応え抜群だし、70代後半に差しかかっても衰え知らずのストリープの威厳にも恐れ入る。今日性のある皮肉を伴ったユーモアも適度にちりばめられていて、前作を見ていなくても、あるいは当方のようにほとんど忘れてしまっていても、十分に楽しめる仕上がりになっていた。
世界のモードに影響を与えるファッション雑誌「ランウェイ」の伝説的編集長、ミランダ・プリーストリー(メリル・ストリープ)のアシスタントからキャリアを積み重ね、今や一流紙の敏腕記者として表彰されるまでに成長したアンディ・サックス(アン・ハサウェイ)だったが、同僚記者ともども一斉にリストラに遭ってしまう。「ランウェイ」経営母体のオーナーのコネで特集企画の責任者として再びミランダの下で働くことになったが、かつての上司は自分のことを覚えてはおらず、依然として無理難題を押しつけてきた。
元同僚のエミリー・チャールトン(エミリー・ブラント)やミランダの右腕、ナイジェル・キプリング(スタンリー・トゥッチ)に、ケネス・ブラナー、ルーシー・リューら新たな出演陣も加わり、実在のブランド名が飛び交うファッション業界の現在地と急速に活字離れが進行するメディア事情を絡ませながらテンポよく物語が展開する。残念ながらこちとらファッション関係にはてんで疎く、高級服やバッグなどを見ても「へえ、これが最先端のデザインか」くらいしか感想が湧かないが、メディアの劇変については身につまされる描写も多い。
冒頭、アンディが勤めていた新聞社の記者が一斉に首を切られるというのもなまじ絵空事とも言えないし、伝統ある「ランウェイ」にしても今や紙の雑誌ではなくウェブ版が主流になっている。ミランダはじめ編集者たちが紙への郷愁を口にするのもあるあるだし、編集会議でミランダが比喩を用いて皮肉る駄目出しに周りが冷や冷やするというのも今日的な光景だ。思えば20年前の前作では、ミランダは自身のコートやバッグを乱暴にアシスタントのデスクに放り投げていたし、罵詈雑言を浴びせかけるなど傍若無人の限りを尽くしていた。あのような所業は今ではパワハラとして訴えられかねず、持ち前の剛腕をストレートに発揮できないというのも風刺が利いている。
経費削減で編集長以下、変革を強いられながらも、それでも雑誌の命であるファッションの目利きの質は落とせない。編集部員は見栄でも一流ブランドに身を包み、外面は余裕のある体を装うというプロ根性が泣かせる。さらには「ランウェイ」自体に危機が迫っているにもかかわらず、編集長以下、大デレゲーションを組んでミラノコレクションに参加する。前作はパリだったけど、今度はファッションの聖地、ミラノか。と思っていたら、あっと驚く場所で歓迎レセプションの晩餐会を開いていて目が点になった。実際にあそこで撮影されたわけではないだろうが、「ランウェイ」の矜持とともにデヴィッド・フランケル監督以下映画スタッフの心意気も伝わってくる。
アンディが特集企画の責任者に就任するいきさつなどご都合主義も多々見受けられるものの、誰もが気楽に楽しむことができる超娯楽作であることは間違いない。何よりもフランケル監督以下、前作の主立った出演者、スタッフが20年ぶりに再結集したというのがすてきだ。作品や仲間に対するお互いの敬意が画面の端々からにじみ出ている。
個人的にはミラノの街のアーティスティックな側面をこれだけふんだんに見せてくれたことがうれしい。ミラノには一度だけ訪れたことがあり、荘厳なドゥオーモやブランドショップが軒を連ねるアーケードを散策したことが懐かしく思い出される。それが2006年のこと。そう、ちょうど前作の「プラダを着た悪魔」が公開されたころだった。現在のミラノ、現在のファッション、現在のメディア業界を描いた最新作に浸りながら20年前に思いを馳せるというのも乙なものだ。(藤井克郎)
2026年5月1日(金)、全国公開。
© 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved

デヴィッド・フランケル監督のアメリカ映画「プラダを着た悪魔2」から。アンディ(右、アン・ハサウェイ)は再びミランダ(メリル・ストリープ)の下で働くことに…… © 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved

デヴィッド・フランケル監督のアメリカ映画「プラダを着た悪魔2」から。ファッションと活字メディアの現在地が描かれる © 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved

