第240夜「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」井上淳一監督

 名古屋のミニシアター、シネマスコーレには、実はまだ一度も行ったことがない。若松孝二監督が作った映画館で、独創的なラインアップから多くの映画人に愛されているということは知っていたし、1999年に産経新聞で映画館を巡る人間模様に焦点を当てた連載企画「スクリーンとともに」を始めたときも、ぜひ取材に訪ねたいとは思っていた。でもどうせ取り上げるなら当時は現役ばりばりだった若松監督にも話を聞きたいし、でも果たして受けてくれるかどうかわからないし、といささかビビッてしまったというのが正直なところだ。

 その後、取材どころか一度も足を運ぶことなく時は過ぎ、若松監督は2012年に事故で急死。2017年には副支配人の坪井篤史さんに密着した「劇場版シネマ狂想曲 名古屋映画館革命」(樋口智彦監督)が封切られ、さらに2022年にはコロナ禍での奮闘ぶりに焦点を当てた「シネマスコーレを解剖する。 コロナなんかぶっ飛ばせ」(菅原竜太監督)というドキュメンタリー映画が公開されるなど、今や全国にその名を知られる名物ミニシアターになっている。

 このとき、製作総指揮を務めた名古屋テレビ放送の村瀬史憲プロデューサーにキネマ旬報の記事でインタビューをしたが、取材の場に同席していたのが、シネマスコーレの木全純治代表と、この作品の応援団長を自認していた井上淳一監督だった。

 愛知県で生まれ育った井上監督は、ラテン語で「映画の学校」を意味するシネマスコーレで文字通り映画を学び、若松監督率いる若松プロダクションに飛び込んで映画づくりの道に入っていく。「戦争と一人の女」(2013年)といった監督作のほか、「アジアの純真」(2011年、片嶋一貴監督)、「福田村事件」(2023年、森達也監督)など多くの作品で脚本を手がけているが、そんな井上監督自身の青春の一幕を、あふれんばかりの映画愛、映画館愛を込めて織り上げたのが「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」だ。

 井上監督が脚本で携わった前作「止められるか、俺たちを」(2018年、白石和彌監督)は、映画に取りつかれた若者たちがたむろして活気にあふれていた1969年の若松プロを舞台にした青春群像劇だったが、今回はそれから10年あまりが経過した1980年代初めを時代設定にしている。ピンク映画出身の監督、若松孝二(井浦新)は、自らの作品を上映する劇場を持ちたいと、名古屋にシネマスコーレを開設する。支配人として声をかけたのは、東京の名画座、文芸坐を辞めて地元に帰っていた木全純治(東出昌大)だった。若松の無茶ぶりに翻弄されながらも、何とかラインアップに工夫を凝らして徐々に映画ファンを増やしていった木全だったが、そんなシネマスコーレに足しげく通っていた一人に井上淳一(杉田雷麟)がいた。

 映画は、1983年に開館したシネマスコーレ草創期の木全ら映画館スタッフの情熱と葛藤を主軸にしつつ、若松プロに飛び込んで映画づくりにのめり込んでいった井上青年の成長物語にもなっている。

 中でも実質的な主人公と言えるのが、シネマスコーレでスタッフとして働く金本法子(芋生悠)で、彼女の目を通して映画や映画館の魅力と魔力がとことんまで追求される。金本は女性で在日コリアンという負荷を背負って映画の道を目指しているが、撮りたいものが何もないというジレンマに苦しんでいる。もういい加減、諦めればいいと自覚してはいるものの、それでもどうしても離れることができない。芸術なのか、娯楽なのか、この摩訶不思議な映画なるものの正体とは何なのか。恐らくシネマスコーレに通い詰めていた当初から自らに投げかけ続けていると思われる井上監督の深い問いが、スクリーンの端々からひしひしと伝わってきて、ぐっと胸に迫ってくるものがある。

 とは言いつつも、決して教条主義的な映画ではなく、ユーモアとペーソスを巧みにちりばめた第一級の娯楽作品になっている。前作から引き続いて若松監督役を演じた井浦のなりきりぶりはもちろん、無理難題を飄々とこなしていく木全支配人役の東出も本人が乗り移ったかのようで、2人の絶妙な掛け合いは笑いと涙が目まぐるしく押し寄せる。若い芋生、杉田の時代感を見事に体現したたたずまいにも目を見張るばかりだ。

 さらに映画を題材にした映画ならではのお楽しみとして、自主制作や河合塾のコマーシャル短編などの撮影シーンをバランスよく配して、作品に二重三重の厚みをもたらしている。こうやって多角的に映画の正体に迫っていこうという試みは、「誰がために憲法はある」(2019年)などドキュメンタリーもものする井上監督ならではのアプローチだが、それをあえてフィクション仕立てにしたということの意義は大きい。

 東京・人形町での試写会で見たとき、現在はシネマスコーレ代表を務める木全さんも名古屋から駆けつけて「事実が8割」と話していたが、実在の固有名詞がばんばん登場するし、実際にシネマスコーレでも撮影されている。それを単なる記録映像ではなく、井上監督が精魂込めて傑作に仕上げたことで、シネマスコーレにも永遠の命が吹き込まれた。劇中劇で出てくる河合塾の短編のように、作家の目で見つめた作品だからこそ記憶として残っていくのであり、それが映画なのではないだろうか。

 ああ、こんな作品を見せられては、何としても一度はシネマスコーレに行かなくっちゃね。(藤井克郎)

 2024年3月15日(金)から、東京・テアトル新宿など全国で順次公開。

©若松プロダクション

井上淳一監督「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」から。映画の道を目指す井上(左、杉田雷麟)は、若松監督(井浦新)の下で修業をするが…… ©若松プロダクション

井上淳一監督「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」から。金本(右、芋生悠)は支配人の木全(東出昌大)とシネマスコーレの作品編成に頭を悩ませる ©若松プロダクション