最優秀作品賞はアゼルバイジャン作品 第21回東京フィルメックスが閉幕

 どんな時代も映画は現代を描く――。刺激的な最新アジア映画をそろえた東京フィルメックスが11月7日(土)、閉幕した。第21回を数えた今年は、10月30日(金)から9日間にわたって開かれ、コンペティション部門の12本をはじめとした国内外の先鋭的な作品が、有楽町朝日ホールなどの会場で上映された。新型コロナウイルスの影響で海外ゲストが来日できなかったほか、初めて東京国際映画祭と同時期開催となったが、コンペティション部門は5人の審査員が例年通り最優秀作品賞などを選出。最終日には授賞式も開かれた。(藤井克郎)

 昨年までとは若干、雰囲気が違っていた。例年だともっと遅い11月下旬の開幕で、ほぼ連日、メーンの有楽町朝日ホールで上映が行われ、上映後のQ&Aなど多彩なイベントのために多くの人でごった返していた。今年は、日比谷のTOHOシネマズシャンテでの上映が多く、海外からのゲストもいないことから、映画人の交流機会に乏しく、寂しい光景だったのは否めない。

 そんな中でもきっちり12本のコンペティション作品をそろえ、海外の監督とはオンラインで入場者とQ&Aを実施するなど、関係者の努力は大変なものだったと思う。記者は11月4日(水)に上映されたカザフスタンのアディルハン・イェルジャノフ監督作「イエローキャット」のQ&Aに参加したが、監督が約束の時間に遅刻するといったハプニングもあり、なかなかスリリングな体験だった。

 観客からの質問の取り方も、コロナ禍を意識した独特の方法だった。来場している日本人監督の場合も含め、質問者は会場内のQRコードを読み取ってスマートフォンから質問を送り、それをスタッフが読み上げてゲストが答える。これだとマイクを手渡す必要がなく、シャイな日本人にとっては質問もしやすい。いいアイデアだなと感心したが、質問者の顔が見えないという欠点は致し方ないか。

 東京国際映画祭と同時期だったこともあり、それほど多くの作品を見ることはできなかったが、印象に残ったのは11月6日(金)に上映された特別招待作品の「仕事と日(塩谷の谷間で)」の上映だ。今年のベルリン国際映画祭で新設されたエンカウンターズ部門の最優秀賞を受賞したこの映画は、京都府の山深い村を舞台に撮ったC.W.ウィンター&アンダース・エドストローム監督作品で、上映時間は8時間ジャスト。午前11時半の開映から、途中3回の休憩をはさみ、上映が終わったのは夜の9時を過ぎていた。一つの達成感を覚えるような体験だったが、8時間あってこその感動が得られるという素晴らしい作品で、こういう映画を味わえるのも映画祭の醍醐味だという気がした。

 さて最終日の授賞式だが、コンペティション部門の結果は、最優秀作品賞がアゼルバイジャンのヒラル・バイダロフ監督作「死ぬ間際」、審査員特別賞が日本の池田暁監督作「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」、学生審査員が選ぶ学生審査員賞は日本の春本雄二郎監督作「由宇子の天秤」に決まった。またすべての作品から選ばれる観客賞は、ジョニー・トー監督ら香港の監督7人によるオムニバス作品「七人楽隊」が受賞した。

 ビデオでメッセージを寄せた最優秀作品賞のバイダロフ監督は「観客の中にはアゼルバイジャンの映画を初めて見た人もいることと思う。映画祭を開催して私の映画を紹介してくださったことに、改めて感謝します」と喜びの言葉を口にした。

 審査委員長を務めた万田邦敏監督は「映画はどの時代でも必ず現代を描かざるを得ない。120年くらい前に発明されたやや古いテクノロジーである映画という表現で現代を描かなければいけないということは、今回の12作品についても同じで、古いものと新しいものをどうつなげて、今何を発信するかということには自覚的だったと思う。今後も映画はそのようにして作られていくんだなという思いを強くした」と振り返る。

 今回の上映作品のうち、「死ぬ間際」を含めた何本かは、11月21日(土)から30日(月)までオンラインで配信される。映画祭の市山尚三ディレクターは「このコロナ禍にありながら、連日会場にお越しいただいたみなさまには感謝を申し上げたい」と話すとともに、オンライン配信について「なかなか見る機会がない作品もあるので、この機会にご覧いただけたら」とアピールしていた。

最優秀作品賞を受賞したヒラル・バイダロフ監督は、ビデオメッセージで喜びの声を寄せた=2020年11月7日、東京都千代田区の有楽町朝日ホール(藤井克郎撮影)

5人の審査員に祝福される審査員特別賞の池田暁監督(前列左から2人目)と学生審査員賞の春本雄二郎監督(同右から2人目)。コロナ禍の影響で、写真撮影もソーシャルディスタンスを取って行われた=2020年11月7日、東京都千代田区の有楽町朝日ホール(藤井克郎撮影)