コロナに負けず、「次なる映画」の証人に 第21回東京フィルメックスの上映作品発表

 刺激にあふれた最新のアジア映画が集まる映画祭、東京フィルメックス。第21回となる今年は、東京国際映画祭とほぼ同じ時期となる10月30日(金)から11月7日(土)までの9日間、東京・日比谷のTOHOシネマズシャンテなどを会場に開催される。9月24日には、映画祭ディレクターの市山尚三さんがオンラインで記者会見を行い、上映作品を発表。東京国際映画祭との連携について、市山さんは「一般のお客さんには、重なって見られなくなる映画が出るという苦情もあるかと思うが、映画祭としては共同でやることで相乗効果が期待できるのではないかと思い、判断しました」と打ち明けた。

 メーンのコンペティション部門は12作品が上映される。このうち11本は東京フィルメックス初登場の監督の作品で、今年は初めてアルメニアとアゼルバイジャンの映画が含まれた。ほかはイラン、カザフスタン、インド、フィリピン、台湾、中国と、幅広いラインアップになっている。

 そんな中で日本映画は、「泣く子はいねぇが」(佐藤快磨監督)、「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」(池田暁監督)、「由宇子の天秤」(春本雄二郎監督)、「オキナワ サントス」(松林要樹監督)と4作品が選ばれた。日本映画4本は過去最多のことで、市山さんは「いろんなところで若手を育成するという動きが起きているのは確かだと思う」と日本映画の質の向上を認める。

 審査員は、映画監督の万田邦敏さんを審査員長に、アメリカの映画評論家、クリス・フジワラさん、アンスティチュ・フランセ日本の映画プログラム主任、坂本安美さん、アメリカのプロデューサー、エリック・ニヤリさん、オランダの映画評論家、トム・メスさんの5人が務める。リモートではなく、全員にスクリーンでの上映を見て審査をしてもらうことにしており、外国出身者はちょうど日本に滞在しているところをお願いしたという。「新型コロナウィルスの影響で、今年は日本人ばかりでもいいと思っていたら、意外と国際的な顔触れがそろった。しかも個人的に信頼できる人ばかりです」と市山さんは太鼓判を押す。

 オープニング作品には、審査員長を務める万田監督の新作「愛のまなざしを」、クロージング作品として、パレスチナ人のエリア・スレイマン監督の「天国にちがいない」を用意。スレイマン監督作は、「消えゆくものたちの年代記」(1996年)、「D.I.」(2002年)、「時の彼方へ」(2009年)の過去作品も特集上映として紹介される。

 さらに特別招待作品では、デヴィッド・クローネンバーグ監督の1996年作品「クラッシュ」の4K修復版、ベルリン国際映画祭でテディ審査員賞を受賞したツァイ・ミンリャン監督の新作「日子」、ジョニー・トー、サモ・ハンら香港の7人の監督が集結したオムニバス映画「七人楽隊」、ベルリン国際映画祭で監督賞に輝いたホン・サンス監督の「逃げた女」、批評家出身のC.W.ウィンターと写真家のアンダース・エドストロームが共同で監督を務め、京都の山村の生活を1年にわたって描いた8時間の大作「仕事と日(塩尻たよこと塩谷の谷間で)」など話題作が目白押し。同時期に東京国際映画祭も開催されるとなると、どれを見ようか映画ファンには悩ましい限りだ。

 審査員長を務める万田監督は「おそらく今後作られる映画に描かれる人間、社会、風景、物語、すべてが新型コロナの影響からは逃れられないと思います。しかし、映画はこれまでも世界規模の災禍の後に、新たなテーマ、視点、技法、描写力を手に入れ、進化してきました。今回の映画祭に集う映画たち、映画人たち、そして観客が、最初の『次なる映画』の証人になることを私たちは信じています」とのメッセージを寄せた。

リモートで記者会見をする市山尚三ディレクター(東京フィルメックス事務局提供)

オープニング作品に選ばれた万田邦敏監督の「愛のまなざしを」 ©︎Love Mooning Film Partners

8時間の超大作、C.W.ウィンター&アンダース・エドストローム監督の「仕事と日(塩尻たよこと塩谷の谷間で)」