カジュアルに作れる現代から自主映画の原点を見つめる 第45回ぴあフィルムフェスティバル2023ラインナップ発表

 大森一樹や斎藤久志ら1970年代、80年代の作品群から見えてくる時代の波とは――。今年で45回目となる自主映画の祭典、ぴあフィルムフェスティバル(PFF)2023が9月に東京・京橋の国立映画アーカイブで開催される。8月9日(水)には同会場でラインナップ発表会が開かれたが、コンペティション部門のPFFアワード2023と並ぶ目玉企画の招待作品部門は「イカすぜ!70~80年代」と称して、自主映画草創期の貴重な作品が上映される。会見に臨んだPFFディレクターの荒木啓子さんは「70~80年代がいかに大きな動きのあった時代だったかを映し出したい」と意気込みを口にしていた。(藤井克郎)

★ネットを通じて集めた仲間と映画を作る時代

 メインのPFFアワードは、557本の応募作品の中から4カ月近くに及ぶ厳格な審査を経て、22作品が入選。スクリーンとオンラインの双方で披露される。22人の監督は、20歳から35歳までの学生、フリーランス、社会人とさまざまで、4分間のエッセイムービーから110分の劇映画まで彩り豊かな作品が選出された。

 例年と比べると本数が増えたが、荒木ディレクターによると短編が多いことがその理由だ。「初めて応募した人もいれば、何度かトライしている人も混在しています。今は映画を作ることがとてもカジュアルになってきていて、先月まで地方に住んでいた人が、映画を撮りたいと東京に来て、誰も知っている人がいない中、ネットを通じて映画の仲間を集って俳優のオーディションをして映画を作ったという人が3人ほどいる。すごい時代になってきていると感じます」と驚く。

 そんな誰もが映画を作るようになった原動力の一つがPFFだろう。今回は2028年の第50回に向けて自主映画の歴史を整理してみようという第1弾として、招待作品部門で70~80年代を取り上げる。この時代を象徴する自主映画出身の大森一樹、斎藤久志の両監督に、数多くの自主映画を紹介した日比野幸子プロデューサーと昨年の物故者3人の作品をピックアップ。さらにPFFアワード2017で評判を取った「あみこ」の山中瑶子監督が影響を受けた2作品、フランスの名匠、アルノー・デプレシャン監督が熱愛する伊藤俊也監督の「女囚701号 さそり」(1972年)に加え、相米慎二、山川直人、鈴木清順と70~80年代を中心とした貴重なフィルムや隠れた名作の数々が予定されている。

★映画好きが集まってわいわい作る楽しさ

 発表会には、大森監督の長女、大森美季さんも出席。今回は、大森監督が高校2年のときに監督した8ミリ作品「革命狂時代」(1969年)や、監督初の16ミリ「暗くなるまで待てない!」(1975年)など、美季さんも見たことがなかった幻の作品が登場する。

 デジタル化に当たって初めてこれらの作品を目にした美季さんは「ただただ映画好きな人たちが集まってわいわい映画を作るのは楽しいな、ということを体現している作品で、まるで姉のような気持ちで見ました。映画の話を家で父とすることはほとんどなかったので、亡くなってからもっと話を聞いておけばよかったなと後悔しています」と語る。

 また上映作品にアレハンドロ・ホドロフスキー監督の「ホーリー・マウンテン」(1973年)とアンジェイ・ズラウスキー監督の「ポゼッション」(1980年)をセレクトした山中監督も登壇。映画監督を志すきっかけとなった両作品の魅力について「『ホーリー・マウンテン』は映画監督というものは作家であるということを突きつけられた1本でしたし、『ポゼッション』も即興的にやっていたのかなと思うほどとっちらかった映画で、それまでは監督は観客に理解されるように理路整然とさせるのが当たり前と思っていたのが、そうではないということに気づかせてもらいました。どちらも監督の持っている感覚をそのまま受け取って、自分の映画を作る上でかなり影響を受けた作品です」と振り返る。

★多くのスタッフ、俳優と作ることで得る刺激

 このほか、特集上映としてデプレシャン監督の初期作品「二十歳の死」(1991年)など4本を用意。監督本人も27年ぶりにPFFに来場し、トークに参加するほか、第29回PFFスカラシップ作品の岡田詩歌監督「恋脳Experiment」(2023年)の世界初上映も予定されている。

 短編アニメーション「Journey to the 母性の目覚め」でPFFアワード2021の審査員特別賞を受賞した岡田監督にとって、今回のスカラシップ作品は初の実写映画になる。会見に出席した岡田監督は「普段は一人で作ることが多いのですが、あれだけの数のスタッフや俳優の方々と制作するというのがすごく新鮮で、こんなに楽しいことがあるんだというくらい楽しい時間でした」と初の現場体験に刺激を受けたことを打ち明ける。

 荒木ディレクターは「半世紀がたつということで、一つの映画の歴史として自主映画というものが脈々とつながっていることを実感している。50回が見えてきた今、始まりのころからの歴史を整理したい、見つめてみたいと思い、まずは70年代から80年代のあらゆる映画の動きを何とかプログラムに反映できないかと考えました」と5年後までの展望を視野に入れていた。

 第45回ぴあフィルムフェスティバルは、東京会場が9月9日(土)から23日(土)まで国立映画アーカイブで、京都会場が10月14日(土)から22日(日)まで京都文化博物館で開催されるほか、東京開催と同時にオンラインでも配信される。

ラインナップ発表会に臨んだ荒木啓子PFFディレクターと山中瑶子監督、岡田詩歌監督(左から)=2023年8月9日、東京都中央区の国立映画アーカイブ(藤井克郎撮影)