第321夜「アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし」エミリア・ブリックフェルト監督
確かにベースになっているのは、古くから語り継がれてきたシンデレラの物語だ。時代がかった架空の国という設定も、継母と義姉妹にいじめられているかわいそうな少女が憧れの王子さまのハートを射止めるという展開も、まさに誰もが知っているシンデレラそのものなのだが、ルッキズム(外見至上主義)という今日的なテーマを極めてブラックな味つけで盛り込んだことで、こんなにも破天荒で驚天動地の作品に仕上げるとは。これが長編第1作となるノルウェーのエミリア・ブリックフェルト監督、大した感性と度胸の持ち主だなと感服つかまつった。
まず何より、主人公をシンデレラではなく、彼女をいじめ抜く側の義理の姉妹にした発想が素晴らしい。エルヴィラ(リア・マイレン)は母親のレベッカ(アーネ・ダール・トルプ)の再婚に伴い、妹のアルマ(フロー・ファゲーリ)とともにスウェランディア王国へとやってきた。この国の王子(イサーク・カムロート)は国中の女性の憧れの的で、彼女たちは王子との結婚を夢見て日夜、美しさに磨きをかけるべく自己鍛錬に努めていた。
エルヴィラはふっくら型の体形につぶらな瞳、矯正器具をつけた口元と、決して美少女とは言えなかったが、人並みに王子と結ばれることを妄想していた。一方、母親の嫁ぎ先には娘のアグネス(テア・ソフィー・ロック・ネス)がいて、家柄のよさと美貌に恵まれた彼女はエルヴィラに対して上から目線で接してきた。ところがある日、レベッカの再婚相手であるアグネスの父親が急死。アグネスとエルヴィラの立場は一変する。
というところからのシンデレラ、つまりアグネスと、義姉妹、エルヴィスとの競い合いが、エルヴィラの視点で描かれていくのだが、この描写が実に容赦ない。これまでさんざんコケにされてきたアグネスを見返してやろうと、エルヴィラはありとあらゆる手を使って美しさを求めていく。ここまでの展開が、けなげで控えめなエルヴィラに対して高慢ちきなアグネスだったから、見る側は当然、エルヴィラを応援したいという気持ちにさせられる。
実際、誰の目にも明らかに美しくなっていくのだが、美への執着はとどまるところを知らない。やがてとんでもない状態になっていくエグさは相当なもので、怖さよりも痛さが強烈に伝わってくる。画像処理技術を目いっぱいに駆使したスマホの自撮りや、プチ整形から気がつくとどんどんエスカレートしていっている美容外科事情など、異常なまでに美しさを求める昨今の社会への痛烈な皮肉が込められていて、まだ30代前半のブリックフェルト監督、めちゃめちゃ攻めているなと感心した。
とにかくだんだんとグロテスク度が増していく展開は圧倒されるばかりで、やせるために回虫の卵を呑み込むというのもかなりの気持ち悪さなのだが、極め付きは舞踏会で残された靴に足の方を無理やり合わせるというくだりだろう。見ていて思わず声が出ること必至だが、このエルヴィラ役を演じ切ったリア・マイレンの役者根性にも恐れ入る。本当の素顔は一体どういうものなのか想像もつかないほどの千変万化ぶりに、驚きを通り越して感動を覚えること請け合いだ。
このところ、「TITANE チタン」(2021年、ジュリア・デュクルノー監督)や「サブスタンス」(2024年、コラリー・ファルジャ監督)など、おぞましい映像表現を伴った女性監督の傑作が相次いで評判を呼んでいる。また一人、その系譜に連なる新たな才能が誕生したようだ。(藤井克郎)
2026年1月16日(金)から新宿ピカデリーなど全国で公開。
© Mer Film / Lava Films / Zentropa Sweden / MOTOR / Film i Väst / Mediefondet Zefyr / EC1 Łódź 2025

エミリア・ブリックフェルト監督のノルウェー、デンマーク、ポーランド、スウェーデン合作「アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし」から。王子との結婚を夢見るエルヴィラ(リア・マイレン)は…… © Mer Film / Lava Films / Zentropa Sweden / MOTOR / Film i Väst / Mediefondet Zefyr / EC1 Łódź 2025

エミリア・ブリックフェルト監督のノルウェー、デンマーク、ポーランド、スウェーデン合作「アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし」から。エルヴィラ(中央、リア・マイレン)はじめ、王子との結婚を夢見る女性は美の鍛錬に余念がなかった © Mer Film / Lava Films / Zentropa Sweden / MOTOR / Film i Väst / Mediefondet Zefyr / EC1 Łódź 2025

