第306夜「THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE」オダギリジョー監督

 ちょっと苦手とする映画の種類にテレビドラマの劇場版がある。あまりドラマを見ないということもあるが、テレビシリーズのファンへの特典というか、ご褒美というか、あまり本筋とは関係のないおまけのようなエピソードが盛り込まれていて、元ネタを知らない身としては置いてきぼりを食ったような気分にさせられるのがどうにも面白くない。レギュラー出演陣に加えて映画だけのゲストスターの登場も仲間内だけのお楽しみのように思えるし、それでいて観客動員数がいいというのがまた癪に障る。

 特に苦手なのはテレビ局のディレクターがそのまま劇場版の監督を務める場合で、みんながみんなそうとは言わないが、せりふは説明過多で、やけに音楽で感情を揺さぶり、常に泣かせにかかろうとする。のべつ幕なしにクライマックスに達するというのもいかがなものか。

「THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE」はその点、「ある船頭の話」(2019年)で実力は折り紙付きのオダギリジョー監督が脚本も編集も出演も兼ねているし、何よりもNHKで放送されたテレビドラマは欠かさずに見て、腹を抱えて大笑いしたものだ。この劇場版もテレビ版が持っていた思いっきりばかばかしいくだらなさはそのままに、美術に衣装、ロケ地、画面処理に厚みの増した豪華出演者と、撮影も演出も編集も凝りに凝っていて、もうオダギリ監督の天性の素質が爆発した革命的な映画になっていた。

 主人公はオリジナルのテレビドラマと同じく鑑識課警察犬係のハンドラー、一平(池松壮亮)と、その相棒の警察犬、オリバー。ほかの人には優秀な警察犬だと思われているオリバーだが、一平には口の悪い女好きの着ぐるみおじさん(オダギリジョー)にしか見えない。ある日、隣の如月県でスーパーボランティアのコニシさん(佐藤浩市)が行方不明になり、如月県警のカリスマハンドラー、弥生(深津絵里)が捜査協力を求めて一平たち狭間県警の鑑識課にやってくる。

 テレビドラマからの麻生久美子、本田翼、岡山天音、黒木華、永瀬正敏、佐藤浩市らレギュラー陣に加えて、初登場の吉岡里帆、鹿賀丈史、森川葵、髙嶋政宏、そして深津絵里といった芸達者な面々が、オダギリ監督の破天荒で度肝を抜くような演出を嬉々として楽しんでいるのがひしひしと伝わってきて、こちらも浮き浮きした気分にさせられる。中でも深津は8年ぶりの映画出演だそうだが、NHK朝ドラの「カムカムエヴリバディ」で夫婦役を演じたオダギリ監督に全幅の信頼を寄せていることがわかるぶっ飛んだ演技で、見ているこちら側の頬は緩みっぱなしだ。

 ほかにもレギュラー、ゲストの別なく、この人にこんなことを、と驚くような場面が次から次へと現れて、ストーリーを追うのとは違う何かとてつもないエンターテインメントを見せつけられているかのよう。音楽だって、歌あり踊りありで「インド映画みたい」とせりふで言わせる演出もあれば、ゴージャスなクラブでしっとりと歌い上げる夢のようなシーンもある。車の運転手と助手席の人物が分割画面で横に並んで会話をするという構図にいたっては、あまりにも画期的でぶったまげた。

 一方でテレビドラマでも話題になった「えっ!?」だけで延々と成り立たせる会話を再現しようとして、オリバーに「それはもういいだろう」と言わせ、今度は指2本を振って「ちっ」と舌打ちをするやりとりをまた延々と繰り返すなど、あきれ返るほどのばかばかしさには感動を覚えるほどだ。こんな振り幅の大きい異次元のエンターテインメントを1時間48分の上映時間の中でやりおおせてしまうのだから、オダギリ監督、まさに恐るべし。

 もちろんテレビ版を見ていない人にとっては、何のこっちゃ、と思うところもあるかもしれない。でもこの映画は、そんな次元はとっくに超えている。全編、何のこっちゃ、でいいんだよ。だってめちゃくちゃ楽しいんだもの。そう、これこそテレビドラマの劇場版の究極の形かもしれないね。(藤井克郎)

 2025年9月26日(金)、全国公開。

© 2025「THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE」製作委員会

オダギリジョー監督「THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE」から。一平(左、池松壮亮)とオリバー(右、オダギリジョー)は弥生(深津絵里)の捜査に協力するが…… © 2025「THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE」製作委員会

オダギリジョー監督「THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE」から。吉岡里帆(左)、鹿賀丈史ら劇場版メンバーも、この奇想天外な世界観に見事に溶け込んでいる © 2025「THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE」製作委員会