わからないけど何かすごい映画との邂逅 10日から第44回ぴあフィルムフェスティバル

 コロナ禍で映画づくりに挑む人が増えた――。今年で44回目を迎える自主映画の祭典「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」が9月10日(土)、東京・京橋の国立映画アーカイブで開幕する。グランプリを競うコンペティション部門の「PFFアワード」のほか、生誕100年となるピエル・パオロ・パゾリーニ監督の特集など幅広いプログラムが用意されているが、今年のPFFアワードの特徴は初めて映画を撮った監督の作品が多いことだ。ラインナップ発表会に臨んだPFFディレクターの荒木啓子さんは「コロナ禍で時間ができて、今まで映画を撮ってみたかったけど初めてやってみようと思ったって言うんです。コロナによって夢を実現するための時間ができたということに非常に感動しています」と意外な傾向に驚いている。(藤井克郎)

ここに出す、という目標であり続ける意義

 PFFアワードは、520作品の応募の中から18人のセレクションメンバーが約4カ月かけてじっくりと審査。17人の監督による16作品が入選作として上映される。荒木ディレクターによると、このうち半分以上が初めて映画を撮ったという作品だそうで、映画を学んでいる学生の作品も含まれるが、例年以上にフリーターや社会人が多いという印象だ。

 この16本からグランプリや準グランプリなど各賞が選ばれるが、最終審査を行うのは映画監督の菊地健雄、浪曲師の玉川奈々福、俳優のとよた真帆、映画監督の三島有紀子、俳優の光石研の5氏。このうち発表会に登壇した三島監督は「コロナもある中、今年もPFFがきちんと開かれるということは奇跡の一つなんだろうなという気持ちです」と開催の意義を強調する。

「幼な子われらに生まれ」(2017年)などで世界的に評価の高い三島監督だが、大学に入って映画を撮り始めた1988年のころは恥ずかしくて、とてもPFFに応募などできなかったと打ち明ける。

「当時は大天才しか出しちゃいけないと思っていて、映画偏差値が高くもない自分にとっては敷居の高い存在でした。今も自主映画を作っている皆さんは不安だと思うが、ここに出すんだという目標があることはすごく大事なことで、PFFが何十年も続けてきた結果だと言えます。これからもたくさんの人にとにかく撮ってほしいし、おじけづかずにPFFにがんがん出してもらえたらと思います」とエールを送る。

現代にも生き続ける矛盾を表現した作品群

 PFFアワード以外にも見応えのある多彩な作品がそろっている。

 特集上映が組まれている映画作家は、今年2022年が生誕100年となるイタリアのパゾリーニ監督と、3月に急逝した青山真治監督だ。パゾリーニは映画監督だけでなく詩人、小説家、評論家とさまざまな分野で活躍しながら53歳で他界した才人で、今回はイタリア文化会館の協力の下、ほぼコンプリートに近いラインアップが実現した。「デカメロン」(1971年)や「アラビアンナイト」(1974年)といった代表作のほか、ドキュメンタリーの「アフリカのオレステイアのための覚書」(1970年)に、ジャン=リュック・ゴダールやベルナルド・ベルトルッチらとのオムニバス作品「愛と怒り」(1969年)など日本初上映の作品もあり、貴重な機会となっている。

 発表会に参加したイタリア文化会館の文化担当官、アルベルト・マナイさんは「パゾリーニは20世紀のイタリア文化を語る上で特異な存在と言える。映画監督だけでなく、詩人や小説家、論客としても素晴らしい足跡を残しているし、斬新な形をイタリア文化にもたらしただけでなく、政治面での論争も巻き起こした。矛盾を内包した生き方同様、その作品は何らかの解決策を提示しているものではなく、今も多くの人によって研究され、議論の対象として現代に生き続けている。今回PFFでパゾリーニ特集が組まれ、イタリア文化会館として協力できることはこの上ない喜びです」と語っていた。

 また青山監督特集としては、「WiLd LIFe」(1997年)、「月の砂漠」(2001年)、「私立探偵濱マイク 名前のない森」(2002年)など35ミリフィルム5作品を上映。そのほか、「PLAN 75」(2022年)の上映とともに早川千絵監督と水野詠子プロデューサー、ヴィターリー・カネフスキー監督の「動くな、死ね、甦れ!」(1989年)をテーマに映画監督の藤元明緒さんと配給の村田悦子さんが対談するPFFスペシャル映画講座に加え、完成したばかりの第26回PFFスカラシップ作品、清原惟監督の「すべての夜を思いだす」の初披露も予定されている。

 荒木ディレクターは「パゾリーニの『テオレマ』(1968年)を見て全然わからなくて、もう一回見たけどそれでもわからなかったという監督がいましたが、わからないって素晴らしいことだと思う。わからないけど何かすごいな、という映画がいっぱいあるようなゆとりのある世の中になってほしいなと思っています。PFFアワードの入選作品にも、わからないけど何かすごい、という作品が入っていますよ」と鑑賞の勧めを説いていた。

 第44回ぴあフィルムフェスティバルは、2022年9月10日(土)から25日(日)まで国立映画アーカイブで開催。月曜は休館。

第44回ぴあフィルムフェスティバルのラインナップ発表会に出席した荒木啓子PFFディレクターと三島有紀子監督、イタリア文化会館のアルベルト・マナイ文化担当官(左から)=2022年8月3日、東京都中央区の国立映画アーカイブ(藤井克郎撮影)