街づくりに必要不可欠な存在に 下北沢にミニシアター「K2」オープン

 キーワードは「街のみんなの共有地」――。再開発が進む東京都世田谷区の下北沢駅前に、新たに映画館「シモキタ-エキマエ-シネマ K2」が誕生する。71席の劇場が1スクリーンだけというこぢんまりとしたミニシアターだが、地元商店街との連携やオンラインの活用などで、ウィズコロナ時代における新しい文化交流の場を目指す。2022年1月20日(木)のオープンを前に開かれたプレス向け内覧会で、その先進性の一端を垣間見せてもらった。(藤井克郎)

★マナー動画は地元商店街の人々が出演

 「K2」が設けられるのは、小田急線下北沢駅から直結する新しい複合施設「(tefu)lounge(テフラウンジ)」の2階。シェアオフィスやレンタルスペースなどを備えた建物で、同じフロアにはカフェやイベントスペースも併設される。映画の上映を待つ間にくつろぎと語らいの時間を過ごすこともできるし、映画を見なくても人々が集う空間になっている。

 K2を運営するのは、映画の製作、配給なども手がける企画運営会社のIncline(インクライン)だ。ITを活用して文化芸術に貢献する企業5社で構成するクリエイティブ企業で、その1社、モーションギャラリーの大高健志代表がK2開設の中心的役割を担ってきた。

「特に都市型の再開発というと、大きなビルを建てて大規模な会社をテナントとして入れるというのが主流だが、小田急電鉄が『下北線路街』として進めている開発のコンセプトは、もう少し街の人々に寄り添い、いろんなカルチャーが溶け込んで地元に愛される形でやっていこうというもの。その一つの要素としてミニシアターが必要だということで相談を受け、Inclineがチームで担うことになりました。街づくりを行う中で、ミニシアターなどの文化施設が、利益以前にそもそも必要なんだというメッセージがうれしいし、このような事例をたくさん作っていかないと、どんどん映画館が減っていくという状況になってしまう。何とかしっかりした形でこの映画館を成立させたいなと思っています」と、1月14日に開かれた内覧会の席上、大高さんは決意を口にする。

 その思いは館名にも表れている。カラコルム山脈にある世界最高峰の一つ、K2のように最高峰の場所を目指すとともに、映画館の所在地の「北沢2丁目」を意味する。「街の人に愛着を持ってもらえる映画館を作っていく」という気概を込めた。

 例えば、映画上映前に流れる鑑賞マナーを呼びかける動画は、地元の商店街の人々に出演してもらって製作。パン屋さんが自分たちのパンの㏚をすると同時に、「館内は禁煙です」「前の椅子を蹴らないで」などと呼びかけている。「映画を見終わった後、そのまま駅から帰ってしまうのではなく、マナー動画を起点に、じゃあ帰りに何か食べよう、買い物しよう、となるよう、街に繰り出す導線を作っていきたい」と大高さんは言う。

★雑誌発刊にオンラインのコミュニティー開設も

 さらに大きな特徴として挙げられるのが、単に映画を上映する場所にとどまらない多様な文化発信活動だ。例えば隔月で雑誌「MAKING」を発刊し、K2で上映する作品の制作過程や背景などを本という形で紹介。一般の書店でも販売する。

 ほかにも、モーションギャラリーが開発したインターネットを活用したプラットフォーム「BASIC」を利用して、K2のファンコミュニティーを開設する。月額の参加で、K2で上映される作品のオンラインでの鑑賞やファン同士の交流を図るなど、下北沢という街の一角から、日本全国、果ては世界にまで映画の輪を広げていく。

 この日の内覧会には、2012年に新刊書店「本屋B&B」を下北沢にオープンしたブック・コーディネーターの内沼晋太郎さんも登壇。大高さんとの間で地域と文化をテーマにクロストークを繰り広げた。

★行って帰るまでのいろんな体験込みの価値

 内沼さんは2020年4月、小田急線の線路跡を利用した「下北線路街」にできた商業スペース「BONUS TRACK」の運営にも携わっており、B&Bもその一角に移設した。コロナ禍の始まりのころのオープンで、遠くからの呼び込みができなかった代わりに、近隣の人々が支えてくれて、今となっては逆によかったかもしれないと思っている。

「今の時代、映画もオンラインで見ることができるし、本もアマゾンで買えたりする。そのものだけなら、家から一歩も出ないでできてしまう中で、映画館とか本屋とかの価値というのは、そこで何が体験できるかだと思うんです。見に行くプロセスとか、座っている椅子とか、行って帰るまでのいろんな体験込みの行為がある以上、街と無関係ではいられない。街との関係性をちゃんと作っていくことが、これからの映画館なり本屋なり、文化施設がやっていく一つのアプローチであることは間違いありません」と、新しい映画館の試みにエールを送っていた。

 K2のオープンは1月20日(木)午前10時。こけら落としに、Incline が配給を手がける濱口竜介監督の「偶然と想像」と、「何食わぬ顔」(2003年)、「PASSION」(2008年)といった濱口監督の過去作品を上映する。その後、24日(月)からは「映画:フィッシュマンズ」(手嶋悠貴監督)、2月4日(金)から「鈴木さん」(佐々木想監督)のラインアップが組まれている。

シモキタ-エキマエ-シネマ「K2」 1スクリーン、71席。東京都世田谷区北沢2-21(tefu)lounge2F。

劇場内はゆったりと座席を配し、どこからでも見やすい工夫が施されている=2022年1月14日、東京都世田谷区のシモキタ-エキマエ-シネマ「K2」(藤井克郎撮影)

プレス内覧会でクロストークを繰り広げたモーションギャラリーの大高健志代表(左)とブック・コーディネーターの内沼晋太郎さん=2022年1月14日、東京都世田谷区のシモキタ-エキマエ-シネマ「K2」(藤井克郎撮影)

映画館のロビーにはカフェやイベントスペースも併設され、ゆったりとした空間が広がっている=2022年1月14日、東京都世田谷区のシモキタ-エキマエ-シネマ「K2」(藤井克郎撮影)

シモキタ-エキマエ-シネマ「K2」が入る「(tefu)lounge」は、小田急線の下北沢駅に直結している=2022年1月14日、東京都世田谷区(藤井克郎撮影)