第131夜 「COME&GO カム・アンド・ゴー」リム・カーワイ監督

 大阪は2年間だけ暮らしたことがある。こてこてのなにわっ子からしたら2年なんてほんのお客さんだろうけど、お客さんの気軽さもあって、日ごと夜ごとあちこち出没していた。住まいが住之江区だったから道頓堀や千日前といったミナミが多かったが、梅田界隈のキタにもよく出かけたものだ。キタというと高級クラブが軒を連ねる北新地のイメージが強いけれど、東梅田の先の堂山町なんて怪しげな風俗店と大衆居酒屋が狭い路地にひしめき合っていて、まるで異世界に足を踏み入れたような雰囲気なんだよね。さらにその迷宮を抜けると、古い木造住宅を利用したおしゃれなカフェなんかが点在する中崎町があって、時間と空間が何層にも折り重なっているような風情がとてもいい感じだった。

 あれから17、18年が過ぎ去ったが、中崎町周辺を舞台にした「COME&GO カム・アンド・ゴー」を見ると、今も街のたたずまいはあんまり変わっていない気がする。それどころか「お客さん」はさらに多種多様になっているようで、異次元ぶりにますます拍車がかかっているのかもしれない。

 映画の主人公は登場人物全員と言っていいほどで、一人一人のさまざまな事情を背景にした群像劇が複雑に絡み合って展開される。韓国から連れてこられた4人の女の子は、在日韓国人のブローカーの手配で日本人AVギャルとして中国人観光客の相手をさせられる。ほかの観光客となじめない元教師の中国人は、日本のAVにはまっている台湾人と出くわして、一緒にホテルの温泉に入ることになる。さらに工場から脱走したベトナム人実習生、昼夜のアルバイトを掛け持ちするミャンマー人留学生、自分の料理店を持つことを夢見るネパール人の店員、商談で来日したマレーシアのビジネスマンと、まあ実に多彩な外国人が入れ代わり立ち代わり現れて、誰かと誰かが微妙に交じり合う。居場所がないのは日本人も同じで、徳島出身の家出少女は沖縄出身のAV制作者によってビデオに出演させられそうになる。

 そんな中、中崎町に独りで暮らす陽気なおじさんの古いアパートから白骨死体が発見され、この街に住む刑事が捜査を始める。といったストーリーは、そんなに深い意味をなしてはいない。住民だけでなく、旅行者も出張のビジネスマンも、身売りされてきた女の子も、法律の壁や日本独自の常識にがんじがらめになりながら、でもそれなりに精いっぱい生きている。みんな本質は孤独だが、どこかで誰かとつながっていて、それはあまり優しくないように見えながら、この大阪という街が放っておいてくれないからに違いない。マレーシア生まれで、長く大阪を拠点に活動している中国系のリム・カーワイ監督だからこその多角的で思いやりのあるまなざしが、映画全体を温かく包み込む。

 それにしてもよくぞこれだけ多国籍の俳優陣をそろえたものだ。何より驚いたのが、日本のAVをあさりに台湾から通ってくるオタク中年を演じたリー・カーション(李康生)で、あのツァイ・ミンリャン(蔡明亮)監督作品のシンボルがこんな軽いテイストで演技を楽しんでいることに感心した。

 ほかにもベトナムのリエン・ビン・ファットは、日本でも公開されて話題を呼んだ「ソン・ランの響き」(2018年、レオン・レ監督)の主演俳優だし、ミャンマーのナン・トレイシー、マレーシアのJ・C・チー、ネパールのモウサム・グルン、韓国のイ・グァンス、香港のデイヴィッド・シウ、中国のゴウジーと、本国では映画にテレビドラマにCMに音楽にと、さまざまな現場で活躍する面々らしい。

 対する日本側も、ヌードモデルとして知られる兎丸愛美に加え、千原せいじ、桂雀々、渡辺真起子、尚玄、望月オーソンと個性派が顔をそろえる。彼らがやりとりするさまざまな言語が入り交じった会話はまさに今の日本そのもので、その苦悶と葛藤が込められたせりふを耳にするだけでも、この映画を見る価値は十分にあると言えそうだ。(藤井克郎)

 2021年11月19日(金)からヒューマントラストシネマ渋谷など、全国で順次公開。

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リム・カーワイ監督作品「COME&GO カム・アンド・ゴー」から。ミャンマー人留学生のミミ(ナン・トレイシー)は、夢をかなえるためアルバイトを掛け持ちするが…… © cinemadrifters

リム・カーワイ監督作品「COME&GO カム・アンド・ゴー」から。台湾人のシャオカン(リー・カーション)は、AVグッズを購入しに頻繁に大阪を訪れる © cinemadrifters