第116夜 「サマーフィルムにのって」松本壮史監督

 この夏、映画や映画館をモチーフにした日本映画が相次いで公開される。中でも、松竹映画100周年記念と銘打った山田洋次監督の「キネマの神様」はテレビCMもばんばん流れていて、相当、力を入れているようだ。主役に予定されていた志村けんが新型コロナウイルスで急逝し、沢田研二が後を継いだことも話題を呼んだが、作品の中でもコロナ禍にあえぐ全国の映画館に熱いエールを送っていて、じーんと胸に響く。

 ただ原田マハの原作小説が「映画を見る、映画を見せる」素晴らしさをテーマにしていたのと比べると、この映画化作品は「映画を作る」ことに重きを置いて翻案している。山田監督自身の体験を織り込んだのだろうが、原作ファンとしては、ちょっと寂しい気がしないでもない。

 同じ8月6日に公開される「サマーフィルムにのって」も、やはり映画作りを題材にしている作品だが、映画ってこんなにいいものなんだ、という感情がストレートに表現されていて、映画好きとしては涙が込み上げてきて仕方がなかった。それでいて若者向けのさわやかSF青春ドラマになっているってんだから、これが初の長編映画となる松本壮史監督、ただものじゃあない。

 映画部に所属する高校3年生のハダシ(伊藤万理華)は、ほかの部員からは一人浮いた存在だった。というのも、好きなジャンルは今どきの女子高校生には珍しい時代劇で、勝新太郎や三船敏郎らの名作ポスターに囲まれた秘密基地を拠点に、親友のビート板(河合優実)、ブルーハワイ(祷キララ)とチャンバラごっこに興じる毎日を送っている。

 映画部では部員の総意で、ライバルの花鈴(甲田まひる)が監督を務めるキラキラ恋愛映画の撮影が進められていたが、ハダシは自ら脚本を書いた「武士の青春」を何とか撮りたいと、独自にスタッフを集め始める。そんなある日、時代劇を見に訪れた名画座で、スクリーンを見つめて涙を流していた青年、凛太郎(金子大地)と出くわす。時代劇の主役にぴったりだと一目ぼれしたハダシは、凛太郎に自作への出演を依頼するが……。

 作品は、ハダシが手がける「武士の青春」の撮影風景を中心に、ライバル花鈴監督作品の制作も絡めつつ、出演を頑なに拒否する凛太郎の秘密を徐々に解き明かしていくという展開で推移する。時代劇だけでなく、アイドル映画にSF映画とあらゆるジャンルの要素がぎゅっと詰まっていて、それでいて切なくも甘酸っぱい青春の1ページという老若男女の誰もが共鳴できるテーマに覆われている。

 中でも映画というものの魅力に触れた描写の数々は、映画好きにはたまらないものがある。ハダシの語る「映画はスクリーンを通して今と過去がつながっている」というせりふは震えがくるほどの名言だし、何よりも驚いたのは未来における映画の存在だ。ネタバレになるからあまり詳しくは書かないけれど、昨今のファスト映画の横行にも通じる問題が提起されていて、1988年生まれと若い松本監督の映画への熱い思いがひしひしと伝わってくる。最初はバカにしているように思えたキラキラ恋愛映画も、同じ映画としてきちんと敬意を払って描かれていて、真の映画愛を感じた。

 ただ映画は一つのモチーフに過ぎず、作品に通底するのは、他人がどう思おうと自分の信念を貫けば志は必ず通じるという、現代を生きる若者への普遍的なメッセージだ。自分の好きなものに対してぶれずに突き進んでいくハダシの生き方はかっこいいし、現代っ子らしさも漂わせつつ、どこか凛としたたたずまいの彼女を、元乃木坂46メンバーの伊藤万理華が見事に演じきっていた。

 ほかに、9月には閉館間際の映画館を舞台にした「浜の朝日の嘘つきどもと」(タナダユキ監督)も公開される。併せて見ることで、映画なるもののよさを改めて認識できるに違いない。(藤井克郎)

 2021年8月6日(金)、新宿武蔵野館、渋谷WHITE CINE QUINTOなど、全国で公開。

© 2021「サマーフィルムにのって」製作委員会

松本壮史監督作「サマーフィルムにのって」から。ハダシ(右手前、伊藤万理華)らは時代劇の制作に青春を懸ける © 2021「サマーフィルムにのって」製作委員会

松本壮史監督作「サマーフィルムにのって」から。ハダシ(右から2人目、伊藤万理華)らは時代劇の制作に青春を懸ける © 2021「サマーフィルムにのって」製作委員会