第91夜「ヤクザと家族 The Family」藤井道人監督

 別に親戚でも何でもないんだけど、同姓の人が活躍しているって聞くだけで素直にうれしい。最近だと、将棋の最年少記録を次々と塗り替えている藤井聡太が相変わらずの勢いだし、音楽界では大注目を浴びている藤井風のこれからが楽しみだ。

 映画で言えば、この人、藤井道人監督が筆頭格だろう。2014年に「幻肢」で取材したときは、まだ商業映画デビューしたばかりの20代のころで、「10年後には世界でしっかりと見てもらえるような監督になりたい」と話すなど、初々しい中にも高い志を秘めていたが、その後は毎年のように話題作を発表。スタイリッシュなバイオレンス映画「デイアンドナイト」(2019年)を作ったかと思えば、同じ年には日本の政治風土に真っ向から切り込んだ「新聞記者」(2019年)を手がけるなど、硬軟取り混ぜて何でもござれの快進撃は刮目に値する。

 今度はヤクザの世界に攻め入った。「ヤクザと家族 The Family」は、ある組事務所の興亡を軸に、1999年、2005年、2019年と3つの年代で定点観測をした作品で、従来の実録映画とは一線を画し、決してヤクザを怖いけどかっこいい存在としては描いていない。それどころか、暴力団対策法の強化で追い詰められ、愛する人を守ってやることもできないという情けない状況に陥っていくのだ。

 主人公は父親を薬物中毒で失い、天涯孤独の身となった山本(綾野剛)。チンピラ時代に柴咲組の組長(舘ひろし)に命を救われ、組の一員としてのし上がっていくが、対立する組織や警察などさまざまな敵が立ちはだかる。

 この山本に代表される組員たちは旧来のヤクザ像そのもので、虚勢を張ったり威嚇したりして恐怖を誇示しつつ、相手を自分の意のままにしようとする。特に女性を下に見る感覚は今の時代には通用しないだろうにもかかわらず、世の中にはそういう男どもがいまだに多いのも確かで、そんな前時代的な価値観をヤクザに象徴させている。1999年や2005年にはそれでも大丈夫だったかもしれないが、もう2019年には生き残っていけない。こうして時代遅れの男たちがどうやって果てていくか、というのがこの映画の主眼になっている。

 もう一つ、藤井監督が強調しようとしているのが、タイトルにもなっている家族のあり方だ。ヤクザの親分子分の関係は親兄弟にも勝る強い結びつきがある一方、組員一人一人には愛する家族もいる。どちらの家族に比重を置くかという葛藤は古今東西、この手の作品の永遠のテーマとも言えるが、ここでも藤井監督は今日風の視点を盛り込んでいる。

 山本は若い時分、キャバクラで働く由香(尾野真千子)という女にほれる。それから数年後、シングルマザーとして堅実に生きる由香母子に次々と不幸が訪れる。そのいきさつについてはネタバレになるのであまり詳しくは書かないが、かつてヤクザの組にいたというだけで、自分自身はおろか、大切に思っている人にまで影響が及ぶというのが、反社会勢力に対する今の世間の反応なのだろう。コロナ禍におけるいわゆる自粛警察の横行にも通じるテーマで、深い洞察力が光る。

 藤井監督と言えば、映像表現への創意工夫にも定評がある。「新聞記者」のときは、内閣情報調査室を異様な暗さで描写して、不穏な雰囲気をものの見事に暗示していた。今回も、組事務所にアパートの部屋、役場の窓口と、すべて自然光だけの薄暗さで統一されている。ヤクザに身を置いた人間には決して光が当たらないということを、暗にほのめかしているかのようだ。

 それでいて、ラストなどはエンターテインメントの王道をいくような爽快さで、社会性と芸術性と娯楽性がバランスよくミックスされている。藤井姓を代表する映像文化のトップランナーから、ますます目が離せない。(藤井克郎)

 2021年1月29日(金)、全国公開。

©2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会

藤井道人監督作品「ヤクザと家族 The Family」から。柴咲組の組長(左、舘ひろし)に認められた山本(綾野剛)は…… ©2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会

藤井道人監督作品「ヤクザと家族 The Family」から。山本(右、綾野剛)は堅気の由香(尾野真千子)にほれるが…… ©2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会