「なぜ君は総理大臣になれないのか」(大島新監督)

 この思い切り刺激的なドキュメンタリー映画は、当初からこの時期の封切りが予定されていた。平時であってもそれなりにインパクトはあったろうが、新型コロナウイルスの感染拡大で改めて日本の政治、行政のダメさ加減が浮き彫りになった今、この作品が公開される意味は大きい。わが国の政治をめぐる状況は、実はずっと以前から何ら変わっていないし、それを一国会議員の情熱で変えようとするのは恐らく不可能に近いという現実を、絶望的なくらいに見せつけられる。

 主人公は現在当選5期目の衆議院議員、小川淳也、49歳。2003年10月10日の衆議院解散の日、大島新監督は高松市に飛び、当時32歳の小川の姿をカメラに収めた。大島監督の妻と高校で同学年だった小川が「家族の猛反対を押し切って衆院選に出馬するらしい」と聞いて興味を持ったというのが動機だった。

 総務省のエリート官僚だった小川は、地盤(後援組織)も看板(知名度)も鞄(選挙資金)もない中、ただ「社会をよくしたい」という志を抱いて出馬を決意する。民主党の公認候補となるも、地元の新聞社オーナー一族の世襲議員に敗れ、落選。だがそのまっすぐな情熱と、理想の政策を明快に語る能力に触れた大島監督は、その後もことあるごとに小川をカメラで追いかけた。

 次の2005年の総選挙で初当選し、2009年には民主党が政権交代を成し遂げるものの、2012年に大敗して安倍政権が誕生。さらに2017年には当時所属していた民進党が分裂し、小川は苦悩した末に希望の党から出馬する。そんな激動の17年を経ても、小川の理想は決してぶれず、いまだに熱いままというのがスクリーンから伝わってくる。

 カメラの前だから繕っているわけではない。大島監督は小川本人だけでなく、政治記者や秘書、後援会、それに家族にもカメラを向けるが、誰もが「彼は政治家に向いていないんじゃないか」と口にする。大島監督も同じように「恐らく政治家に向いていない」と小川本人に指摘するし、そのことは本人だって認めている。

 だがここで言う政治家とは、政治を行う人ではなく、政治を利用してうまく立ち回る人のことを指しているのではないか。本来なら小川のように常に政策のことだけを考えている人の方が政治家に向いていなければならないはずだ。そんな日本の特異な政治状況を、大島監督は17年という長い年月を費やしてくっきりとあぶり出したと言えるだろう。

 と言って、決して堅苦しい映画にはなっていない。選挙活動で両親と一緒に過ごせないのを泣いて嫌がっていた幼い2人の娘は、前回の選挙では「娘です」のたすきをかけて、雨の中、道行く人にチラシを配る。家族4人で暮らしていたアパートの一室は、今も家賃4万円というつつましさだ。お金儲けも党内出世も全く興味がない政治家がここにいるというだけで、何となく救われたような気分になる。

 コロナ禍によって、図らずも世界のリーダーの資質があらわになった。コロナ以後の世界は、今までの政治状況では立ちいかなくなるのは明らかで、さてそのときわれわれはどんなリーダーを選ぶのか。厳しい問いを一人一人に突きつけられたような気がした。(藤井克郎)

 2020年6月13日(土)からポレポレ東中野、ヒューマントラストシネマ有楽町など全国で順次公開。

©ネツゲン

ドキュメンタリー映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」から ©ネツゲン

ドキュメンタリー映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」から ©ネツゲン