第54夜「ようこそ、革命シネマへ」スハイブ・ガスメルバリ監督

 映画を見る楽しみの一つに、世界のさまざまな土地のお国柄や風景を知ることができるということがある。北アフリカのスーダンという国は、恐らく今後も行くことはないだろうけど、この「ようこそ、革命シネマへ」というドキュメンタリー映画で、街のたたずまいや歴史と国情、そして人々の熱い心をたっぷりと味わうことができた。

 映画が見つめるのは、かつてこの国で映画産業に携わっていた老人たちだ。彼らは1960~70年代にドイツやロシアなどで映画を学び、帰国後は革新的な作品を次々と発表。国際的にも高い評価を得ていた。

 だが1989年、スーダンに軍事クーデターが起きて独裁政権が誕生し、自由な表現活動が制限される。ある者は海外に亡命し、ある者は映画の道をあきらめて、スーダンの映画文化の灯はまたたく間に消えてしまう。そして今、仲間4人が母国で再会したものの、国内には映画館がないどころか、上映会を開くだけでも困難な状況になっていた。

 この4人のおじいちゃんの映画愛、映画館愛がすばらしい。カメラも照明もない中、薄暗い部屋で撮影の真似事をする。ところどころ差しはさまれる彼らの代表作の断片映像が生き生きと先鋭的で、そんな過去の情熱を見せつけられたら、なおのこと現在の彼らの映画に対する複雑な思いが知れて胸が締めつけられる。

 やがて4人は、以前は野外映画館だった場所を利用して、無料の上映会を開きたいと活動を始める。ぼろぼろの会場を何とか上映できるよう整備し、機材を調達。どんな映画を見たいか、たくさんの人に聞いて回り、痛快娯楽作品の「ジャンゴ 繋がれざる者」(2012年、クエンティン・タランティーノ監督)の上映権を取得するが、なぜか役所の許可が下りない。

 時あたかも選挙の真っ最中で、投票総数よりも得票数の方が多いという不思議な開票結果で当選した大統領は、勝利宣言で自国や自国民の美徳を滔々と述べる。文化を抑えつけて何が美徳かと思うが、その独裁者のもと、無能な役人が自分では責任を取りたくないから、いろいろと難癖をつけて彼らの請願をたらい回しにする。たった1本の娯楽映画の無料上映がなぜできないのか。この映画は、政治と文化の相いれない悲劇性を見事に浮き彫りにする。

 救いは、4人が過去にこんなにも辛酸をなめ、今も屈辱の日々にありながら、決して陽気さを失わないことだ。映画への愛を得々と語り、お互いの作品をあれこれ論評するさまを、スーダン出身の若いスハイブ・ガスメルバリ監督は誠実にとらえる。4人のうちの1人、イブラヒム・シャダッドの過去作など、モノクロ画面のかなりスタイリッシュな映像だし、クーデターが起きずにそのまま映画産業が発達していたら、今ごろスーダンはアフリカ随一の映画大国になっていたかもしれない。改めて独裁国家の無慈悲ぶり、非道さに憤りを覚える。

 その点、わが国はあらゆる映画を自由に見ることができて幸せだ、と短絡的に考えるのは早計だ。為政者の顔色をうかがい、無能な役人が責任を回避しまくる社会は、別にスーダンに限ったことではない。いつまでも映画を映画館で楽しむためにも、1人1人が政治に目を光らせておく必要があるということを肝に銘じた。(藤井克郎)

 4月6日(月)からユーロスペースなど全国順次公開。

© AGAT Films & Cie – Sudanese Film Group – MADE IN GERMANY Filmproduktion – GOÏ–GOÏ Productions – Vidéo de Poche – Doha Film Institute – 2019

フランス・スーダン・ドイツ・チャド・カタール合作のドキュメンタリー映画「ようこそ、革命シネマへ」から © AGAT Films & Cie – Sudanese Film Group – MADE IN GERMANY Filmproduktion – GOÏ–GOÏ Productions – Vidéo de Poche – Doha Film Institute – 2019

フランス・スーダン・ドイツ・チャド・カタール合作のドキュメンタリー映画「ようこそ、革命シネマへ」から © AGAT Films & Cie – Sudanese Film Group – MADE IN GERMANY Filmproduktion – GOÏ–GOÏ Productions – Vidéo de Poche – Doha Film Institute – 2019