批判精神を持ちつつ批判を受け入れる ドキュメンタリー映画「愛国者に気をつけろ!鈴木邦男」の先行試写会開催
誰とでも仲良くなれるおじさんの謎は、解き明かされたのか―。新右翼団体「一水会」元顧問の政治活動家、鈴木邦男さん(76)の素顔に迫るドキュメンタリー映画「愛国者に気をつけろ!鈴木邦男」(中村真夕監督)の公開を前に、先行試写会が1月16日夜、東京・東中野のポレポレ坐で開かれた。上映後には、鈴木さんのことをよく知る映画監督の森達也さんと中村監督とのトークも行われ、鈴木さんの不思議な魅力について大いに語り合った。
この映画は、鈴木さんへのロングインタビューを中心に、一水会代表の木村三浩さんや作家の雨宮処凛さんら、鈴木さんと付き合いのある人々の証言などで構成。鈴木さんによって右翼運動に引き入れられ、三島由紀夫とともに25歳で自決した大学の後輩、森田必勝の命日には必ず三重県の墓参りに訪れたり、日本の捕鯨を批判的に描いたドキュメンタリー映画「ザ・コーヴ」の上映阻止運動の現場に乗り込んで説得しようとしたりする姿など、鈴木さんの多様な側面が描かれる。証言者の中には、オウム真理教事件で死刑が執行された麻原彰晃の三女、松本麗華さんや、元日本赤軍で映画監督の足立正生さん、拉致被害者家族会の元副代表、蓮池透さんら多彩な顔触れがそろっていて、鈴木さんの幅広い人脈を物語る。
この日、登壇した森さんは、オウム真理教を題材にした監督作「A」(1998年)が公開されたとき、鈴木さんがいち早く映画評を書いてくれたことからの付き合いだという。映画に描かれていたことは「ほぼ知っている」と話す森さんだが、「台所で髪を整えているというのは、今日初めて知りました」と笑いを誘う。
映画の中では、鈴木さんがなぜ右翼活動を始めるにいたったか、どうして現在の安倍政権下における愛国主義に警鐘を鳴らすのか、といった鈴木さんの思想の源泉とともに、多くの人に愛される鈴木さんの人柄についても探っていく。3年前から撮り始めたという中村監督は「最初は何も知らなくて、どうして右も左も関係なくいろんな人と、このおじさんは仲良くできるのかなという、その謎を解こうと思ったんです。謎はあんまり解けていませんけど」と打ち明ける。
森さんがすかさず「解けているじゃない、映画では」とやり返すが、中村監督によると鈴木さんはとらえどころのない人で、取材前から「絶対に答えない」とくぎを刺されていた女性関係について、最後に思い切って詰め寄ってみたものの、ものの見事にはぐらかされてしまったという。「でもそのとらえどころのなさが魅力でもあるんです」
映画には、鈴木さんの追っかけをしている若い女性たち、いわゆる「邦男ガールズ」も登場して、鈴木さんの魅力を語るシーンがある。中村監督は「映画でも言っていますが、常に批判精神を持ちつつ、批判を受け入れる態勢であれ、という人なんです。タイトルは鈴木さんの著書(『〈愛国心〉に気をつけろ!』)からつけたのですが、鈴木さんにしか言えないような気がします」とその魅力の一端を明かしていた。
映画「愛国者に気をつけろ!鈴木邦男」は2月1日から、ポレポレ東中野で公開。上映後には連日、ゲストを招いて中村監督とのトークショーが予定されている。鈴木さん本人は昨年11月に体調を崩して療養中だが、映画公開前には退院して、できればトークショーに駆けつけたいと話しているという。
映画「愛国者に気をつけろ!鈴木邦男」の先行試写会で、来場者とトークを繰り広げる中村真夕監督(左)とゲストの森達也監督=2020年1月16日、東京都中野区のポレポレ坐(藤井克郎撮影)
映画「愛国者に気をつけろ!鈴木邦男」の先行上映会に参加した中村真夕監督(左)とゲストの森達也監督=2020年1月16日、東京都中野区のポレポレ坐(藤井克郎撮影)