持続可能な映画館のあり方を探る

 連携を強めて、次の世代へ継承を――。ミニシアターや地域の映画祭など、全国各地の映画上映関係者が集まる「全国コミュニティシネマ会議2021」が2022年2月3日、東京・渋谷のユーロライブで開かれた。前回と同様、今回も新型コロナウイルスの影響で規模を縮小。年明けの東京で1日だけの開催となったが、コロナ禍の中で新規に事業をスタートさせたミニシアターや、既存の劇場による新たな試みなどが報告され、持続可能な上映活動の方向を模索した。(藤井克郎)

★新作映画の製作に挑む映画館

 前回の2020年12月に続いて、東京・渋谷のユーロライブが会場となったが、オミクロン株の感染拡大中ということもあり、全国各地からオンラインで参加した会員も多かった。最初に各地の映画館、映画上映団体から「コロナ禍の中で始めました」と題してプレゼンテーションが行われたが、オンラインの調整がうまくいかず、およそ30分遅れてのスタート。映画上映の際の舞台挨拶などですっかりオンラインの活用が定着したものの、決して万能ではないことが改めて認識された。

 そのプレゼンテーションだが、この1年に新たに誕生したミニシアターとして、鳥取県湯梨浜町のジグシアター、東京都青梅市のシネマネコ、島根県益田市の小野沢シネマ、東京都世田谷区のシモキタ-エキマエ-シネマK2から、開館までの経緯や劇場の特色などについて説明がなされた。さらに2021年春に移転リニューアルした宮崎市の宮崎キネマ館、2020年6月の新館オープンに続き、富山県高岡市で別館の運営も始めた富山市のほとり座など、コロナ禍にあって規模の拡大に挑んだ映画館からの発表もあった。

 もう一つ、今回のプレゼンテーションで目を引いたのが、新作映画の製作に携わった映画館からの報告だった。群馬県高崎市のシネマテークたかさきなどを運営するNPO法人たかさきコミュニティシネマは同県出身の飯塚花笑監督による「フタリノセカイ」を、横浜市中区のシネマ・ジャック&ベティは30周年企画映画「誰かの花」(奥田裕介監督)を製作。「誰かの花」に関しては、奥田監督と主演のカトウシンスケも登壇し、自らのミニシアター体験などを交えて作品のPRに努めた。カトウは、昨年12月に先行上映されたジャック&ベティでの初日に満席で入れなかった常連客が、後日、再び劇場を訪れて「感動した」と声をかけてくれたエピソードを披露。「ミニシアターに居場所を見つけていらっしゃるそういう方々にも響いていることがうれしかった」と笑顔で語っていた。

 またユニークだったのは、神戸市中央区の元町映画館が製作した「きょう、映画館に行かない?」で、2020年に開館10周年を迎えた同映画館がゆかりの監督たちに誕生日プレゼントのような短編作品を作ってもらおうと企画したところ、本が完成。「元町映画館だけで記念上映して終わりではもったいない」と、他館での公開も進められているという。さらに東京都北区のシネマ・チュプキ・タバタは、あらゆる人が映画を楽しめるユニバーサル上映の過程を取り上げたドキュメンタリー「こころの通訳者たち」を完成させるなど、映画館が手がける映画製作の輪が確実に広がっている。

★大きな絵を描く余裕も必要

 後半は「持続可能な映画館」との演題でディスカッションが実施された。シネマテークたかさきの志尾睦子さんを司会に、シネ・ヌーヴォ(大阪市西区)の山崎紀子さん、バーチャルスクリーンの「Reel」を開発したモーションギャラリーの大高健志さん、Bunkamuraル・シネマ(東京都渋谷区)の浅倉奏さん、山形国際ドキュメンタリー映画祭の畑あゆみさんと濱治佳さん、それにリモートで第七藝術劇場(大阪市淀川区)の小坂誠さん、元町映画館(神戸市中央区)の林未来さんが参加。それぞれの取り組みとともに、アフターコロナを見据えた映画館の可能性について探った。

 中でも印象的だったのは、関西のミニシアターが連携して取り組んでいる事業の数々だ。2020年4月の第1回緊急事態宣言のときは、いち早く「Save our local cinemasプロジェクト」と称してTシャツを販売。売上を参加劇場に分配して、打撃を最小限に食い止めたが、それ以前からさまざまな連携を模索していて、それが功を奏したとも言える。

 元町映画館の林さんによると、2011年ごろからのデジタル化問題で一緒に勉強会をやったことがきっかけで京阪神のミニシアター間で連携が図られるようになり、2015年には学生は500円で入場できる「え~がな500」キャンペーンを6館で実施。さらに学生が映画館の宣伝活動に参加する「映画チア部」が神戸を皮切りに大阪、京都で発足したり、2017年には神戸市内のすべての映画館が参加して映画祭を開催したりするなど、ライバルと思われていた近隣他館との協力体制が推し進められていった。

 シネ・ヌーヴォの山崎さんは「この11月、12月と、自分たちだけでは考えもつかなかった事業を持ち込むなど風通しのよさを感じたが、それはこれまでの取り組みがあったからかなと感じている。映画館をもうちょっと開放していって、いろんな考えや作品を取り入れていくのは、長い目で見るといいんじゃないかなと思いました」と、連携が持続力につながることを強調する。

 さらに映画館の持続性には若い世代の呼び込みが不可欠だと指摘。映画チア部の企画には若い観客が劇場に足を運んでいる現状を踏まえ、「次の世代が何を求めているかを考えていかないといけない」と、これからの課題を挙げる。

 元町映画館の林さんは「コロナ禍で思いがけず立ち止まる機会を与えられて、映画というもの、映画館という場所にもっと公共性を持たせていくにはどうしたらいいか、深く考えることができた。ただ映画館の日々の仕事に追われていると、地域をどうしよう、文化をどうしようといった大きな絵を描く余裕がない。もっと大きな絵を描けるようにしないと、映画館の持続はかなわないし、時代に即した変化も受け入れられないのかなと思います」と自らを戒めていた。

横浜シネマ・ジャック&ベティのプレゼンテーションでは、30周年企画映画「誰かの花」の奥田裕介監督(中央)、主演のカトウシンスケ(右)も登壇。作品のPRに努めた=2022年2月3日、東京都渋谷区のユーロライブ(藤井克郎撮影)

ディスカッションでは、持続可能な映画館をテーマに活発な議論が交わされた=2022年2月3日、東京都渋谷区のユーロライブ(藤井克郎撮影)