日韓で手を携えて上映環境の改善を

 芸術映画、自主映画を享受する文化権の確立を目指して…。全国の映画上映に携わっている人たちが情報交換などを行う全国コミュニティシネマ会議(コミュニティシネマセンターなど主催)が9月6日、埼玉県川口市のSKIPシティ彩の国ビジュアルプラザで開幕した。今年は韓国からアート系映画館の関係者が多数参加し、韓国での上映状況の報告のほか、日本の映画館、映画祭関係者らとのディスカッションなどで両国の映画上映環境における課題などを話し合った。

 この会議は、1996年に映画上映ネットワーク会議として福岡市で開かれたのが始まりで、以来、年に1回、場所を変えて、地域の映画上映に関して意見を交わしてきた。2002年にはコミュニティシネマのコンセプトが提示され、翌03年にコミュニティシネマ支援センター(現在のコミュニティシネマセンター)が発足。シネコンの急速な普及、デジタル技術の革新など上映環境が激変する中で、地域に根差した映画上映の重要性を訴えてきた。

 今年の会議は、9月6、7日の2日間にわたって開催。1日目の6日は、開会の挨拶に続いて、韓国のアート系映画の変遷と現状についてプレゼンテーションとディスカッションが行われた後、若手映画作家の山戸結希監督を交えて「上映者が作り手を育てる!」と銘打ったディスカッションが開かれるなど、積極的な発言が飛び交った。

 第1部の日韓コミュニティシネマ会議に登場したのは、韓国からはソウルのアート系映画館、アートハウス・モモの副代表でアート系映画館が加盟する全国芸術映画館協会の代表を務めるチェ・ナギョンさん、ソウルにあるアート系映画館、アートナインの代表、チョン・サンジンさんと理事のジュ・ヒさん、インチョンにある名画を中心に上映する映画館、ミリム劇場支配人のチェ・ヒョンジュンさんの4人。一方、日本からは大分市の大分シネマ5支配人、田井肇さん、群馬県高崎市のシネマテークたかさき支配人、志尾睦子さんが出席し、日韓のアート系映画館の現状などが報告された。

 中でも興味深かったのは、韓国では国の政府機関である映画振興委員会(KOFIC)が、映画の配給や上映活動に対しても助成しているということだ。プレゼンテーションを行ったチェ・ナギョンさんによると、KOFICの支援は2000年代初頭に始まり、現在は約20館を選定して、1館あたり年間約5000万ウォン(約450万円)が助成されるという。一時期、朴槿恵政権下の2015~16年に文化統制が行われ、厳しく規制されたが、そのときの闘いがかえって全国芸術映画館協会という組織の強化につながったという。

 「国からの助成に関しては、アート系や自主制作の映画を上映する補償という形ではなく、映画を上映したり、鑑賞したりする権利という概念でアプローチしたい。つまり映画を作り、享受する文化権を確立するということです」と強調する。

 ディスカッションでも、韓国のこの助成制度に対する質問が日本側からしきりに投げられた。日本は映画制作に対しては文化庁から助成が出ることはあるものの、配給や興行に対しての支援はない。映画館の経営はいつまでも貧しいままというのが常識で、志尾さんのシネマテークたかさきは、当初の年間5万人の入場客という目標を達成するのに12年かかったと打ち明ける。

 シネマ5の田井さんは「芸術活動をやることは自らを犠牲にしていくものという思いがあって、人を雇っても、映画が好きなんだから劣悪な条件でも勘弁してね、というのが現実です。この会議でも、幾度も映画館を守っていくための公的助成が必要だという議論はずっと長くやってきたが、それって僕たちいいことをやっているんだから、お上も協力してくれないかというノリなんですね。でもチェさんが文化権とおっしゃっていたが、われわれはコミュニティの人たちがある一定の文化を享受するための権利を守っていく存在であるという形で、もうちょっと積極的なアプローチがあってもいいのかなという気がします」と大いに刺激を受けた様子だった。

 続く第2部「上映者が作り手を育てる!」では、山戸監督のほか、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭のプログラミング・ディレクター、長谷川敏行さん、大阪市の映画館、シネ・ヌーヴォ支配人の山崎紀子さん、長野県松本市の自主上映組織、松本CINEMAセレクト代表の宮崎善文さんが登壇。自腹でトークイベントに監督を呼ぶなど、地方での映画上映における涙ぐましい努力を耳にした山戸監督は「資本主義的な作品だけが地方に届くという状況ではなく、多様な作品がかかるミニシアター文化として成立することがとても大切だと思った。私たちの世代から変えていけることは確実にあると思います」と決意を新たにしていた。

 2日目の7日は、分科会でさらに深く掘り下げた議論が予定されている。(藤井克郎)

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第1部「日韓コミュニティシネマ会議」で現状を報告する韓国のアート系映画館関係者=2019年9月6日、埼玉県川口市のSKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ(藤井克郎撮影)

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第2部「上映者が作り手を育てる!」で活発に意見を交わす山戸結希監督(左から2人目)ら=2019年9月6日、埼玉県川口市のSKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ(藤井克郎撮影)