「数人から始まった映画がこんな大きな賞を……」

「小さなチームで作った映画が大きな映画祭で賞をいただけて、本当にうれしく思っています」。世界三大映画祭の一つに数えられる第71回ベルリン国際映画祭で、「偶然と想像」が最高賞に次ぐ審査員グランプリを受賞した濱口竜介監督は、素直に喜びを口にした。例年だと2月にベルリンでおよそ10日間にわたって開かれる映画祭だが、今年は新型コロナウイルスの影響で3月1日から5日間、オンラインで実施。濱口監督も現地に行くことなく、日本で受賞の連絡を受けた。「ただ映画祭の役割についてよく考えられた体制を構築していて、映画祭が失ったものは何もない。むしろこの状況の中で多くのものを得たのではないか」と関係者の創意に感謝の言葉を述べた。(藤井克郎)

 各賞が発表されたのは3月5日。その翌日の6日に、やはりオンラインで濱口監督と高田聡プロデューサーの受賞会見が開かれ、当方もウェブ会議サービスのZoomを利用して参加した。記者一人一人の顔がはっきりとわかるオンライン会見は、リアルな会見よりもより親密感が増すような気もする。

 濱口監督に銀熊賞の審査員グランプリ受賞の連絡が届いたのは、会期中の3月3日のこと。映画祭ディレクターのカルロ・シャトリアン氏からメールが届き、悪い話ではないから電話で話をしたいということだった。英語が堪能な高田プロデューサーと2人でZoomを通じてシャトリアン氏と会話を交わし、受賞が決まったことを知ったという。

「2019年に会議室のような部屋で俳優さんとリハーサルをすることから、本当に数人から始まっている作品で、コロナの状況を受けて撮影の体制も変えながら完成させたものが、ベルリン国際映画祭という大きな映画祭で賞をいただけたこと、とてもありがたく思っています。特に役者の皆さんが素晴らしい形で画面に映ってくれたことが海外にも伝わったんだと思うと、うれしい気持ちでいます。そしてその演技を支えてくれたスタッフにもとても感謝をしています。小さなチームでしたが、一人一人の献身的な姿勢がなくては決して成立しないものでした。本当にありがとうございます」と濱口監督は謙虚に語る。

 受賞作の「偶然と想像」は、3つの短編からなるオムニバス作品で、第1話「魔法(よりもっと不確か)」には古川琴音、中島歩、玄理、第2話「扉は開けたままで」には渋川清彦、森郁月、甲斐翔真、第3話「もう一度」には占部房子、河井青葉が出演している。日本での劇場公開は未定で、当方も未見だが、濱口監督によると、今回は各話ともそれぞれ1組、2組の関係性を描いていて、圧縮したり飛躍させたりすることで、各40分程度の短編に収めたという。

「海外でどう受け取られるかというのはそんなに考えないというか、自分では単純に面白いと思って作っている。会話劇なので、日本語だと伝わるニュアンスが字幕だと抜け落ちてしまうこともあるが、ただ逆に言葉を発するときの役者さんの表情が、日本で感じるよりもダイレクトに魅力的なものとして伝わっているのかなという気もします」

 濱口監督は昨年、コロナ禍にあえぐ映画館を救おうと「ミニシアター・エイド基金」を深田晃司監督らとともに発足させるなど、映画文化の将来に人一倍、心を砕いている。今回、ベルリン国際映画祭がオンラインでの開催となったことについては、映画祭の役割を深く考えた結果だろうと評価する。

「映画祭は映画と観客の初めての出合いの場であると同時に、各国の配給業者が映画を発見するマーケットの側面もすごく大きい。これがなくなってしまうと、各国に行きわたることが遅れたり、そのチャンスを失ってしまったりする映画があるかもしれない。今回、オンラインでフィルムマーケットを開いたことで多くのバイヤーに映画を買う場が与えられ、しかも映画の価値はどうしても賞に左右されるので、この段階で各賞の発表をすることを決めたのだと思います」と納得する。

 リアルな映画祭のセレモニーは、コロナ禍の収束が見込まれる6月に改めてベルリンで開催する予定で、映画祭のもう一つの大事な側面である観客と映画が映画館で出合うという場が実現することになる。

「これは本当によく考えられている体制だと思う。今後、コロナ禍で映画を見るということは、このようにリアルとオンラインの合わせ技で進めていくようなことになるんじゃないでしょうか」と濱口監督は語っていた。

オンラインでの受賞記者会見を行う濱口竜介監督(右)と高田聡プロデューサー=2021年3月6日(提供写真)

ベルリン国際映画祭で審査員グランプリを受賞した濱口竜介監督作「偶然と想像」から ©︎ 2021 NEOPA / Fictive