コロナ禍でも若手映画作家に発表の場を

 デジタルシネマに特化した映画の祭典「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」が、今年も9月26日(土)から開催される。17年目を迎え、若い才能の発掘と育成という趣旨もすっかり認知されてきたが、今年は新型コロナウイルスの影響で、埼玉県川口市のSKIPシティでの上映を断念。オンライン配信での開催という異例の措置となる。8月31日(月)には、やはりオンラインでラインナップ発表会見が開かれたが、映画祭ディレクターの土川勉さんは「世界各地の映画祭が開催を中止、延期する事態になっていて、若いクリエイターが作品を発表できる機会がどんどん減っている。コロナ禍の影響を最大限に受けないで発表できる場として、オンライン配信による開催を選びました」と打ち明けた。

 会見によると、今年は規模を縮小して、国際コンペティションと国内コンペティションだけを開催。国際コンペティションは過去最多の106の国と地域から883作品の応募があり、厳選された10作品が上映される。また国内コンペティションは、上映時間が60分以上の長編部門に5作品、60分未満15分以上の短編部門に9作品がノミネートされた。10月4日(日)までの9日間、有料で自由に視聴することが可能で、最終日には国際コンペティションの最優秀作品賞、監督賞、審査員特別賞、観客賞、国内コンペティションの優秀作品賞、観客賞などが発表される。

 国際コンペティションにノミネートされた10作品は、今年2月のベルリン国際映画祭でも上映されたノルウェー・スウェーデン合作映画「願い」(マリア・セーダル監督)や、イラクの紛争地域で活動するカメラマンを追いかけたデンマーク・フィンランド合作のドキュメンタリー映画「戦場カメラマン ヤン・グラルップの記録」(ボリス・B・ベアトラム監督)といった話題作がそろった。日本からも唯一、串田壮史監督の長編第1作「写真の女」が選ばれている。

 フランス在住の映画プロデューサーで、「あん」(河瀨直美監督)、「淵に立つ」(深田晃司監督)といった日仏合作映画をプロデュースしている澤田正道さんが審査委員長を務めるほか、「幼な子われらに生まれ」などを手がけた三島有紀子監督ら計4人で審査に当たる。ビデオメッセージを寄せた澤田さんは「今までも、文化、習慣、宗教の異なるさまざまな国の若手のとても斬新で独創的な作品を見せてくれている。今回、間違いなく私も多くのことを発見し、学ぶことになると確信しているし、同じ映画界の人間としてジェラシーを覚えるような映画に出合えることを心待ちにしています」と話す。

 一方、国内コンペティションは、「Shall we ダンス?」(周防正行監督)などの美術で知られる美術監督の部谷京子さんを委員長に、「モリのいる場所」の沖田修一監督、「下衆の愛」(内田英治監督)などのプロデューサーを務めるアダム・トレルさんの3人で審査員を務める。やはりビデオメッセージという形で参加した部谷さんは「このコロナ禍の中で、映画製作者のみなさんは、ゆるぎない信念と覚悟を持って現場に望んでいると思う。審査を通してみなさんの作品と出合えることは幸せです」とコメントを寄せた。

 鑑賞料金は、長編が1作品300円、短編が100円で、フリーパスの見放題プランは1480円となっている。

 例年だと上映後に監督や出演者と観客との間でQ&Aが行われるが、今年もオンラインを原則に何らかの形で実施したいという。最終日の授賞式もどのように行うのがいいのか、今後の状況を鑑みて検討をしているところだ。

 ディレクターの土川さんは「未曽有のコロナ禍でも、若い作家たちに発表する場を設けないと、この映画祭の意義はない。コロナ禍の影響を受けない方法の1つとして配信を選んだが、反対の意見は出なかった。むしろ映画祭を開催してくれてありがとうという激励の意見が随分、寄せられています」と映画祭を敢行することの重要性を強調していた。

国際コンペティションで上映されるノルウェー・スウェーデン合作映画「願い」 © Manuel Claro

日本から唯一、国際コンペティションにノミネートされた串田壮史監督作品「写真の女」 © ピラミッドフィルム