キネカ大森の先付ショートムービーが進化

 映画上映前に流れるマナー啓発などの短い映像のことを先付と呼ぶが、東京都品川区の映画館、キネカ大森が独自に作っている先付ショートムービー「もぎりさん」が、さらなる進化を遂げている。昨年7月から月替わりで6本が上映された第1弾に続き、「もぎりさんsession2」として新たに6本を製作。7月12日から同館で上映が始まった。劇場近くの商業施設、アトレ大森で開催中のセールス「SUMMER CARNIVAL」のビジュアルにも「もぎりさん」のイラストが採用されるなど、大森界隈では異様な盛り上がりを見せている。

★2分間の映像に真剣勝負

 実は当方、今年5月に2夜にわたって行われた「もぎりさんsession2」の撮影にエキストラとして参加している。キネカ大森を訪れる観客の1人として劇場内で映画を鑑賞している場面などが撮影された。

 参加したのは2日間のうち2日目の5月13日で、全体の10話から12話の3話分だった。撮影はキネカ大森で通常上映が終わってから翌朝の開映前までに終わらせねばならず、午後9時25分に3つある劇場のうち、最後の1号館での上映が終了すると、スタッフがてきぱきと機材を運び込む。昨年の第1弾のときも取材で見学しているが、1夜で全6話分を撮影するという強行軍だったあのときと比べると、心なしかみんな余裕があるように見える。

 この日集まったエキストラは13人。「1話2分くらいの小品で、みなさんには映画を楽しみにきたお客さんとして出てもらいます。10話以外はあまり人が出ない可能性があるので、残ってもらうかどうかは相談させてください」と、「謎の監督」を務める菊地健雄監督が今日の段取りを説明する。第4~6話を担当した菊地監督は、ほかのエピソードも含め、すべての作品で現場につくという、まさに「もぎりさん」右代表のような存在だ。

 10~12話のメガホンを取るのは、「PARKS パークス」の瀬田なつき監督。待機していると、最初のシーンで先頭の入場客としてもぎりさんにチケットをもぎってもらう役に指名された。劇場のドアの前でドキドキしていると、もぎりさんを演じる女優の片桐はいりから「テストのときはもぎりませんから」と丁寧に声をかけられる。さすがの気配りに、幾分、気持ちが楽になる。

 テストの後、3回目の本番でOKとなったが、ほっとする間もなく、劇場内での上映中、上映後に劇場を出ていくところと、次々と撮影が続く。ゲスト出演の女優、唐田えりかが画面を見ながら涙を流すシーンでは、かなり後方に座っていたにもかかわらず、謎の菊地監督から「藤井さん、ちょっと手を下ろしてもらえますか」と指示が飛ぶ。おっと、また映るかもしれないぞ。

 こうして深夜0時過ぎに第10話の撮影が終了。11話、12話はエキストラは必要なしということで、ここで解散となったが、たった2分の作品でも粘りに粘って真剣に向き合っているという映画人の気概が伝わった。

★映画館への愛にあふれた部活動

 このsession2に加え、session1の6話を加えた全12話の一挙お披露目上映会が7月13日、キネカ大森で開かれた。残念ながら公式上映は全席完売で入場できなかったが、イベント後の午後8時半ごろから関係者向けの上映会が開催され、エキストラとして参加した“関係者”ということで見せてもらった。

 会場には、新作の第7~9話を手がけた鈴木太一監督、第10~12話の瀬田監督のほか、第1~3話の大九明子監督、第4~6話の菊地監督も姿を見せた。全12話とも、片桐演じるキネカ大森のアルバイトスタッフ、もぎりさんが、支配人(川瀬陽太)や同僚(佐津川愛美)、それにゲスト出演の観客らとの間で交わすささやかなやりとりが描かれる。いずれも映画や映画館への愛が感じられるさわやかでくすっと笑える作品になっていて、これから始まる本編映画への期待感を高めるには、うってつけの先付映像と言えよう。ちなみに第10話、唐田えりかの背後に薄ぼんやりと私も映っていて、ちょっぴりうれしかった。

 大森在住で、ときどきキネカ大森に映画を見にきては、スタッフと一緒にもぎりを手伝うこともあるという片桐は、かつて映画館でアルバイトをしていた経験のある大の映画館好き。第2弾の製作を熱望していたという片桐は「これは仕事というよりも、部活動みたいな気持ちでやっている」と打ち明ける。

 「キネカのスタッフが、映画館でこんなこともやれるんだ、という思いになってくれたらうれしいし、この輪を広げていけたらと思う。最終的にはいろんな劇場の活性化につなげていけるような、そういう活動ができたらいいですね」と夢を語ってくれた。

 「もぎりさんsession2」は、2019年7月12日から3週間ごとに1話ずつ、キネカ大森で本編映画に先付して上映される。またJR大森駅の商業施設、アトレ大森では、7月31日までの「SUMMER CARNIVAL」のビジュアルに「もぎりさん」のイラストが採用されたほか、5階レストランフロアでは「もぎりさんsession2」の撮影風景などを収めた写真展も開催されている。6月に台北で開かれた「調味映楽祭」でも上映されるなど、世界でも注目を浴びており、大森発の「部活動映像」がどんな進展を見せるのか、目が離せなくなってきた。(藤井克郎)

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第10話にはエキストラとして参加した。劇場入り口で待機中に瀬田なつき監督(中央)らスタッフをパチリ=5月13日、東京都品川区のキネカ大森(藤井克郎撮影)

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「もぎりさん」一挙上映会後に開かれた片桐はいり(左から2人目)や監督らのサイン会には長い列が続いた=7月13日、東京都品川区のキネカ大森(藤井克郎撮影)

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アトレ大森では「もぎりさん」の写真展も開催。多くの人が興味深そうに眺めていた=7月13日、東京都大田区のアトレ大森(藤井克郎撮影)