「アイヌモシㇼ」日本外国特派員協会で会見

アイヌ文化をフェアな目線で

 意識したのは、アイヌの役はアイヌの人々が演じるということ。現代に生きるアイヌ文化をテーマにした映画「アイヌモシㇼ」が10月17日から公開されるのを前に、東京・丸の内の日本外国特派員協会で8日、試写会と記者会見が開かれ、福永壮志監督と出演者の秋辺デボが海外メディアの質問に応じた。アイヌの血を引く秋辺は北海道からオンラインでの参加となったが、福永監督について「最初はややこしい奴が来たなと思ったが、監督の情熱に触れて、この人だったら手伝おうと思うようになった」と打ち明けた。

 この映画は、北海道阿寒湖畔のアイヌコタン(集落)を舞台に、14歳の中学生、カント(下倉幹人)が、アイヌのアイデンティティーに悩みながらも、周囲の大人たちと交わる中でちょっとだけ成長していくという作品。「アイヌモシㇼ」とは、アイヌの言葉で「人間の住むところ」といった意味で、アイヌの人々の日常が祭りや音楽などの伝統文化を伴ってじっくりと描かれる。もう何年も前から行われていない熊送りの儀式、イオマンテを復活させるかどうかで大人たちが激しく議論を戦わすなど、ドキュメンタリーのように臨場感あふれる場面も多く、四季折々に変化する北海道の大自然とともに、たっぷりと見ごたえのある作品になっている。

 秋辺は、コタンの中心的存在のデボを演じている。カントに子熊の世話をさせるなど、父親を亡くしたカントを導く重要な役どころだ。自身と同じ役名だが、どれだけ似ているか尋ねられた秋辺は「ほとんど似ているが、役の方が我慢強い。実際の自分はもっと気が短く、映画のようには教えていられない」と話して、会場の笑いを誘っていた。

 北海道の出身で、米ニューヨークで映画を学んだ福永監督は、初長編映画「リベリアの白い血」(2015年)がベルリン国際映画祭パノラマ部門に出品されるなど、世界各地で評判を呼ぶ。長編第2作として、アイヌ文化をテーマにした映画を企画するが、「和人がアイヌを題材にした映画を作るに当たって、どれだけ気をつけてもつけすぎることはない。それだけ繊細な問題なので、いろんなアプローチを取ったが、その一つがアイヌの方に本人役として出てもらうことでした」と振り返る。

 脚本はあったものの、暗記するようには頼まずに、できるだけ自分の言葉で語ってもらうようにした。「一人一人が自然にいられる環境づくりを、まず念頭に置いた。あまり演技指導はしていないんです」という。

 一方の秋辺は、阿寒のアイヌの家系に生まれ育ち、民芸店を経営しながら木彫、講演、アイヌ舞踊、ロックバンドと、幅広くアイヌ文化の普及に努めている。

「世界中の先住民がこの160年、ひどい目に遭っていて、生活も言語も奪われてきた。アイヌもそうで、中には和人に対する不信感や恨みが消えない人もたくさんいる。でも私の村では30年ほど前から、和人に対する攻撃的な言動をする人はほとんどいない。本当の意味で、共存共栄しようという空気感ができている。だから福永監督が映画を作りたいという気持ちを真剣にアイヌの人に伝えれば、うまくいくなと思ったんです」

 福永監督には、アイヌからの仕返しという映画には決してしないでほしいとお願いしたという。バランスのとれたフェアな目線で作ってくれることを期待した。「だからこの映画は、人々の感動を呼ぶだろうと思っています」と断言していた。

「アイヌモシㇼ」は10月17日(土)から、渋谷ユーロスペースなど全国で順次公開。

外国メディアの質問に応じる福永壮志監督(左端)とオンラインで参加した秋辺デボ=2020年10月8日、東京都千代田区の日本外国特派員協会(藤井克郎撮影)

日本外国特派員協会での記者会見に参加した福永壮志監督(右)とオンライン参加の秋辺デボ=2020年10月8日、東京都千代田区(藤井克郎撮影)

映画「アイヌモシㇼ」の1場面 ©AINU MOSIR LLC/Booster Project