映画を映画として見せる

 オンラインでも映画祭の神髄は変わらず――。新型コロナウィルスの影響で、スクリーンでの上映を断念し、オンライン配信での開催となったSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020が、10月4日(日)に閉幕した。17回目となった今年は、9月26日(土)に開幕し、国際コンペティション10本、国内コンペティションの長編部門5本、短編部門9本のノミネート作品を配信。のべ視聴者数は6000人を超えた。最終日、埼玉県川口市のSKIPシティ映像ホールで行われた授賞式に参加した映画祭の土川勉ディレクターは「異例ずくめの映画祭となったが、関係者のみなさんの努力で無事に終了できた。来年は本当に本当に、参加者全員でこの場でお会いしたいと思います」と力を込めた。

 長編映画3本以下の監督による新作を対象とする国際コンペティションの審査に当たったのは、フランス在住の映画プロデューサー、澤田正道を審査委員長に、映画監督の三島有紀子、ロッテルダム国際映画祭などのプログラマー、ジュリアン・ロスの3人。フランス、日本、イギリスと、それぞれの居住地で別々に作品を視聴し、審査も一堂に会することなくリモートで行った。

 結果、最優秀作品賞をノルウェーのマリア・セーダル監督「願い」が獲得。監督賞と審査員特別賞はロシアのナタリア・ナザロワ監督「ザ・ペンシル」がダブル受賞に輝いた。このほか、観客の投票で決まる観客賞はオーストラリアのベン・ローレンス監督「南スーダンの闇と光」に決まった。

 授賞式には受賞者も審査員も来場せず、ビデオメッセージでコメントを寄せたが、最優秀作品賞を受賞したセーダル監督は、ノルウェーの山小屋で受賞の報を受けたという。「信じられないとともに、とても光栄に感じている。この作品は私の個人的な体験を基に映画にしていて、私にとっては挑戦でもあった。そんな作品が賞をもらったというのは、この映画が感情的にも文化的にも国境を超えたものだったからだと思う。チームの全員がこの受賞を誇りに思っています」と笑顔で喜びを口にした。

 一方、国内コンペティションは、美術監督の部谷京子を審査委員長に、映画監督の沖田修一、プロデューサーのアダム・トレルの3人で討議。長編部門はインド生まれのアンシュル・チョウハン監督が手がけた「コントラ」、短編部門は藤田直哉監督の「stay」が優秀作品賞に選ばれた。このほか、長編部門の磯部鉄平監督「コーンフレーク」、短編部門の朴正一監督「ムイト・プラゼール」が観客賞を獲得。またすべての日本作品を対象に、今後の長編映画制作に可能性を感じる監督に授与するSKIPシティアワードは、国際コンペティションにノミネートされていた「写真の女」の串田壮史監督に贈られた。

 トロフィーを手にした串田監督は「この賞は次回作へのサポートを得られる賞とうかがっているので、ぜひ次回作を作りたい。今、コロナの影響で、政治的な立場の違いから世界中で分断が広がっているが、映画的な喜びというのは、分断されてしまった人たちを一つにできるものだと思っている。国籍も言葉も文化も性別も人種も超えるもので、ぜひ次回作では映画の喜びをお届けできたら」と意欲を示した。

 ビデオメッセージで参加した国際コンペティション審査委員長の澤田プロデューサーは「ドキュメンタリーだけでなく、コメディーであれ、ホラーであれ、常に今が映し出されていて、各国の人がどう今と接しているかをとても興味深く拝見した。今の時代、商業的にはイベント性を持たない映画は公開が難しくなっているが、そういう状況の中で、映画祭は単純に映画を映画として見せる可能性を残している。この映画祭が、常に新しい発見の場であり続けるよう願っています」と、さらなる発展に期待していた。(藤井克郎)

映画祭実行委員会の会長を務める大野元裕・埼玉県知事(左)からSKIPシティアワードのトロフィーを受ける串田壮史監督=2020年10月4日、埼玉県川口市のSKIPシティ映像ホール(藤井克郎撮影)

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020の受賞監督たち=2020年10月4日、埼玉県川口市のSKIPシティ映像ホール(藤井克郎撮影)